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子どもを語学の天才にするために、大人は工夫の天才になろう

廣森 友人 廣森 友人 明治大学 国際日本学部 教授

2020年度から実施予定の新学習指導要領では、小学校高学年(5・6年生)で外国語(英語)が教科化され、これまで実施されてきた外国語活動は中学年(3・4年生)へと引き下げられることになります。しかし、ただ学習時期を早めるだけでなく、同時に学習の質を工夫しなければ、効果は期待できません。

子どもの英語学習には工夫が必要

廣森 友人 子ども(児童)は語学の天才と言われ、「英語学習は早いほど良い」と考える人も多いかもしれません。確かに、どの国の子どもも、いつの間にか母語を話せるようになります。しかし、それは母語だからである、という研究があります。例えば、英語圏での研究ですが、5歳くらいまでに周囲から浴びる言語のシャワーは、1万7000時間に達するといわれています。5歳頃といえば、日本では小学校に上がる少し前で、一通りの会話はできるようになっている時期です。その程度の会話力を身につけるのに1万7000時間かかるということは、例えば、私たちが英語を毎日3時間学習し続けても、習得に16年かかることになります。つまり、子どもはそれだけの時間、母語のシャワーを浴び、大量の言語インプットをしているからこそ自然に母語を話せるようになるわけです。

 さらに、外国語(英語)の習得に際して、早期に始める学習者よりも、年齢が上がってから始めた学習者の方が成績は良いという研究成果が海外を中心に数多く発表されています。実は、アメリカ人が日本語を習得するのにかかる時間は、約2200時間という報告もあります。子どもが母語を話せるようになるより短い時間です。これは、子どもは聞いたものをそのまま覚える「無意識的な学習」が得意なのに対して、大人は発達した認知能力を使った「意識的な学習」が得意であるからだと考えられます。つまり、英語でビジネスをするとか、英語の原書を読むとか、英語を学ぶ目的をはっきり自覚し、高いモチベーション(やる気)で集中して自律的に学習する大人は、習得が早くなるのです。すると、小学校の中学年(9~10歳)で英語の学習を始めても、週1時間の授業では、大量の言語インプットにはなりませんし、また、その年齢の子どもたちが当初から英語を学ぶ目的意識をもっているとも限りません。つまり、単純に学習年齢を早めたからといって効果が期待できるわけではなく、小学校という学習環境下において、言語インプットの量とともに、質を最適化する工夫を凝らすことが必要であり、とても重要になるのです。

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