知られざる農業研究の最前線、“明治大学黒川農場”潜入レポート

明治大学農学部の教育施設でもある黒川農場は、環境・自然・地域との共生をコンセプトとした農業研究の拠点です。地域と大学の連携による多目的な都市型農場をめざして2012年4月に開所し、このフィールドならではのユニークな研究が行われています。都市農業に役立つ栽培技術の確立や絶滅危惧植物の育成など、黒川農場で展開される多彩な研究を、本施設の魅力とともにレポートします。
神奈川県川崎市麻生区の黒川地区に位置し、農学部のある生田キャンパスからも近い明治大学黒川農場
大圃場での農場実習で、実地を通じて農学への理解を深めていく
全体で約13.4ヘクタールもの敷地を有する黒川農場。そのおよそ半分を里山が占めるという豊かな自然に恵まれつつも、都市部に近接している地の利を生かし、体験と実践を基本としたユニークな実習教育を展開しています。
明治大学の農学部では、実地を通じて理解を深めつつ研究を進めていけるよう、全学科とも1年次に農場実習を体験。各学科独自のカリキュラムに基づき、担当教員と農場職員の指導のもと、種まきから収穫まで、通年で作物の栽培管理を学んでいます。
農場実習で主に使用するのは大圃場です。ここでは20~30種の作物が育てられています。春から夏にかけて中心になってくるのがトマトやナス、ピーマンなどの果菜類。秋には葉菜類や根菜類へと移行します。
取材に訪れた11月下旬には、年内で最後となる里芋の収穫を中心に、キャベツや大根などを採りきる作業が行われていた
「都市農業に最適な栽培技術の確立をめざすのも、黒川農場の大切な役割」だと語るのは、この大圃場など慣行栽培の圃場を使って研究に取り組む川岸康司特任教授です。都市農業とは、人口の多い都市部で行われる農業を指します。
同じ関東圏でも、茨城や千葉には大農業地帯があり、所得の50%以上を農業所得が占める主業農家が一定数いるものの、神奈川や東京には都市農業を営む兼業農家が中心となり、継承が危ぶまれています。一方で、農協に卸すのではなく、道の駅や直売場での販売が多い都市農業には、「農家さんがお客様に直接商品の説明をするという、顔が見える農業ができる強みもある」ことに川岸教授は可能性を見いだし、独自の研究を進めています。
研究紹介 vol.01
糖度の高い寒締めホウレンソウを、都市農業の新たな特産品に
糖度8度以上が条件の「寒締めホウレンソウ」を栽培するには、収穫前5日間は地温が5℃以下になる必要があります。糖度が上がるのは、寒さで自らが凍ってしまわないようにするためです。寒締めホウレンソウは、寒冷な東北や北海道では通常ハウス栽培されますが、比較的温暖な関東南部でこの栽培方法はそぐいません。そのため露地にビニールトンネルを張って栽培し、冬場の収穫前にビニールを剥ぐ方法を試し、これに適した品種を探しています。
寒締めホウレンソウといえば、シワシワした葉っぱの縮みホウレンソウ品種をイメージされるでしょうが、栽培研究の結果、一般的な品種かつ収穫前の地温が6℃前後でも、糖度8度を超す場合があることがわかりました。安定的に8度を超すのは難しいものの、超さなかった場合でも平均よりも高い糖度は期待できるため、対面販売などであれば、寒締めホウレンソウをうたわずとも、甘みのあるおいしいホウレンソウとして売りだすことも可能です。
収穫できる1~2月の時期は、都市農業では売り出せるものが少ないのが現状です。ハウスを使わず家庭菜園でも応用できる手法を確立すれば、都市農業の可能性も広がると考えています。

川岸康司 特任教授

慣行栽培圃場の一角にある寒締めホウレンソウの栽培地。手前が縮みホウレンソウ品種の「雪美菜02」、奥が一般品種の「クロノス」
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。