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2025.02.18

知られざる農業研究の最前線、“明治大学黒川農場”潜入レポート

特集
知られざる農業研究の最前線、“明治大学黒川農場”潜入レポート
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人工光により育苗し、太陽光を活用して養液栽培した野菜を商品化

大圃場に隣接する中圃場は、販売用の作物がメインです。取材時はネギの収穫中で、ニンニクやラッキョウなど、冬越しの野菜が育てられていました。大圃場と中圃場の間では、ブルーベリーを栽培。加工実習棟でジャムにする実習も行われています。ほかにも栽培・収穫したサツマイモでオリジナル焼酎を製造するなど、明治大学ブランドの加工食品の生産もめざしています。

明治大学オリジナル芋焼酎「黒川農場」

温室では、トマトやイチゴ、葉菜類などの養液栽培を行い、販売もしています。なかでも学生が大きく関わっているのは、ホウレンソウの水耕栽培です。ホウレンソウの生育適温は20~25℃であるため、夏場にはつくれません。しかし人工光により苗を育てるなど環境管理ができる植物工場のシステムを活用すれば、計算上は年間20回もの生産が可能です。

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学生たちは、露地での栽培も体験する一方で、太陽光利用型の温室での水耕栽培も手がけて違いを理解し、計画的な周年生産について学んでいく

アグリサイエンス研究室を担当する岩﨑泰永教授によれば、「学生たちが早い段階で作物が生育していく姿を理解できるメリットは大きい」とのこと。五感をフルに活用し、作物を手間ひまかけて育てることを土台とした、農場でなければできない実験研究を進めているのだそうです。「作物を実験材料としてではなく、“作物・植物・生き物”として向き合うことで、科学的・論理的な思考能力に加えて感性・感覚を磨き、“思い”をもって社会に出てほしい」と岩﨑教授。一連の経験を通じて掲げた研究テーマを黒川農場で応用実証し、現場とつなぐことを重視していると語ります。

研究紹介 vol.02
より効率よく生育させるための栽培法を見いだし現場に還元

どの作物にも共通して重要なのが「光合成」です。私は、作物をより効率よく生育させるため、いかにして光合成速度を高め、いかにして光合成産物(糖)を必要な部位に転流させるかについて研究しています。
光合成産物は、葉や茎の成長に使えば葉面積が拡大して光合成が促進されるものの、果実の肥大は抑えられてしまいます。逆に果実の肥大にばかり光合成産物を使ってしまうと、葉や茎が成長せず光合成能力が不足してしまいます。養分と気温は、光合成速度と光合成産物の分配に直結します。養分が少なければ葉が少なくなって光合成速度は低下し、過剰になると葉が過繁茂となり果実肥大は抑制されます。気温が高くなれば作物は成長が促進され、より多くの光合成産物が必要になります。光合成産物の供給が追いつかなければ正常な生育ができません。気温と光合成量に合わせて施肥量は調節する必要があり、肥料の多くを輸入に頼る日本は施肥量の削減は必須の課題です。
光合成産物の量から生育や果実肥大で使ってしまったものを差し引いた残りが体内糖濃度です。体内糖濃度は、花芽の分化、果実の品質や障害、病害抵抗性にも強く関わるものの、直接測定する手法はありません。そこで作物の状態を数値化し、気象データと合わせてシミュレーションモデルをつくって体内の糖濃度を推定し、最適な施肥量や気温管理を提示する技術を開発しています。
私の研究室では、「ゼロをイチにできる人を育てる」を目標に掲げ、育種(イチゴ、サツマイモ、ルピナス豆)や加工(発酵食品、ワイン醸造)、有機栽培、生物多様性の維持、物質循環や温室効果ガスの削減、ドローンやスマートグラスを使った生育情報の収集、DXによる都市農業の振興、学生農場NPOの運営協力など様々な研究課題や活動に取り組んでいます。

Meiji.net研究紹介「都市農業は、日本農業の実情を知るきっかけになる」岩﨑泰永 教授

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岩﨑泰永 教授
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スマートグラスを使ったイチゴの花数、熟度別着果数の自動計測の様子

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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