
学びを加速させるアドバイス少し知識を蓄えたうえで体験すれば、学びは広がる
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【11】
学びを加速させるためには、何より体験することが大事です。アーリーモダン(初期近代)の考え方でもありますが、実物に触れたり、旅に出てその場所に行ったり、学ぶ対象やそれに関連のあるものを見聞したりすることは、現代においても非常に大切だと感じています。
私が研究しているのは、アーリーモダンの旅行と蒐集文化です。当時はマテリアルカルチャーが栄えた時代でもあります。コレクションについての研究も、たとえばコインを見ることで、どうつくられどう流通していたのか、刻まれている文字は何で肖像は誰なのか、どのように使われてきたのかなど、当時を紐解いていけます。ベネツィアングラスなどの工芸品に関しても、ものを見ることは、商業的な流通ルートや職人文化の伝わり方など、過去を学ぶことにつながっていく。それをきっかけに気づきが得られ、想像力が広がっていく起点となります。
そういった面でも、美術館や博物館には意義があります。書物に書かれたことプラス、実際にもの自体を見るところから学問が広がっていくのです。ものという視点では、書物自体もそうです。書物の内容や使い方によってさまざまな版が出ていて、大きな版であれば図書館でリファレンスブックとして読まれていたのではないかとか、小さな版だと手元でガイドブックや辞書的に使われていたのではないかとか、サイズ感からも考察できます。色や素材などから得られる情報も少なくありません。
私自身、19世紀に、スコットランドのある地域でつくられていたアンティークを集めていますが、蒐集したものを見ると、その地域でいつどんな模様が流行ったのかもわかります。たとえばシダ植物がよく描かれていたことから、当時の貴族の間でシダ植物を採集するのが流行っていたこともわかりました。日本でも着物や道具を見ると、模様のパターンから当時の流行や風俗がわかりますよね。思いも寄らない形で新しい発見があったり、点と点とがつながったりといった面白さがあります。
旅行もそうです。一昨年、イスタンブールに行ってキリスト教の聖堂がモスクになったアヤソフィアに入ったとき、アーリーモダンのイギリス人たちが、ここに訪れどう思ったのかに興味がわきました。そこから当時の旅行記の記述を調べる研究へとつながりました。
この地球上には、何百年、何千年前のものも現存しているので、旅先で見たり触れたりすることが、発想のわくきっかけにもなるでしょう。アンティークショップをチラッと覗くだけでも、当時の文化への扉は開くものです。
少し知識を蓄えたうえで、体験したりものに触れたりするのが、昔も今も学びのポイントだと思います。自身のもっている興味やバックにある知識を掛け合わせることで、新しい気づきや発見は生まれます。書物やインターネット等で得た知識とともに教室や書斎を飛び出して、体験する旅に出てみませんか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。