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2025.05.08

「闇バイト」の指示役はいかなる罪に問われるか——「共同正犯」の法概念から考える

「闇バイト」の指示役はいかなる罪に問われるか——「共同正犯」の法概念から考える
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SNSを悪用した「闇バイト」が若者を犯罪に巻き込み、社会問題化しています。なかには特殊詐欺から強盗へ、さらに殺人にまで発展するケースも。詐欺や強盗を指示する首謀者と実行役の関係、刑法における共同正犯の責任など、法的解釈を通じて問題の本質を考察します。

凶悪化する「闇バイト」事案と規範意識の低下

阿部 力也 いわゆる「闇バイト」事案について、SNSを利用した犯罪集団が形成され、それが凶悪化している傾向に危機感を覚えています。

 以前から、特殊詐欺(いわゆる振り込め詐欺やオレオレ詐欺)における「受け子」や「出し子」は、SNSを通じて勧誘されるケースが多く見られました。彼らは銀行の防犯カメラや被害者と警察の協力による「騙されたふり作戦」などで逮捕されることも多いのですが、被害者を直接欺く「かけ子」や、指示を出す首謀者が逮捕される例は少ないのが現状です。

 首謀者が捕まらないことで犯罪が続発し、さらに深刻化する傾向も見られます。いわゆる「ルフィ広域強盗事件」に見られるように、詐欺罪から強盗罪、そして強盗致死傷罪に罪質が変化している点に、犯罪の凶悪化という事象を見てとることができると思います。

 窃盗、強盗、詐欺罪といった犯罪を「財産犯」と呼びます。財産犯が多発する背景には、不景気などの経済的要因や経済格差などの社会構造の問題も影響していると考えられます。財産犯は古典的な犯罪であり、おおよそ社会あるところに犯罪はあるので、欲望に負けた犯罪という意味では「身近」なものといえるかもしれません。

 問題は、この古典的な犯罪がSNSなどの新しい技術によって手段が巧妙化し、さらに悪質化している点です。SNSを活用することで、対面の接触がなくても犯罪集団が形成され、集団化することによって抵抗感がなくなり、犯罪が行われやすくなっています。とくに特殊詐欺は(悪い意味で)進化を続けています。

 未成年者が関与する事例も増加しており、その多くは「小遣い稼ぎ」程度の軽い気持ちで犯罪に加担しています。「高額案件あり」という誘い文句で、初めての犯罪がいきなり強盗というケースも報告されています。

 その背景には、家庭や学校での規範意識の涵養に向けた教育が不足している可能性も考えられます。こうした問題に対応するには、教育現場での犯罪防止教育の強化や、SNSのリスクを啓発するキャンペーンの実施が必要です。さらに、家庭内でのコミュニケーションを深めることで、若者が犯罪に引き込まれるリスクを減らす努力も重要でしょう。

 いずれにせよ、軽い気持ちで「闇バイト」に加担してしまうと、場合によっては非常に重い責任を背負わねばならなくなります。とくに強盗致死傷罪(刑法240条)において、被害者を死亡させた場合の刑罰は、死刑か無期拘禁刑という極めて重い刑罰しかありません。

 では、現場に出ていない首謀者たちには、どういった刑罰が下されうるのでしょうか。この論点を、「共同正犯」という法律の概念から考えてみたいと思います。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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