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排斥や格差の問題を防衛性という視点から考える

脇本 竜太郎 脇本 竜太郎 明治大学 情報コミュニケーション学部 専任講師

「存在論的恐怖」にどう対処するか

脇本竜太郎専任講師 私の専門分野である社会心理学は、社会の中での人間行動すべてが研究の対象になる学問です。個人の考え方のバイアスや感情制御の方法のようなことから、対人関係、経済行動、組織の中での人間行動、集団同士の関係や戦争と平和といったことまで、社会心理学が扱う対象は広範囲に及びます。それらの物事について、人間と環境の相互作用という点から理解しようとするのが社会心理学の特徴です。
 私が特に関心を持って取り組んできたのが人間の防衛性で、これまで主に「存在脅威管理理論」に基づいた研究を行ってきました。存在脅威管理理論とは、自尊感情と文化的世界観、そして他者との関係性が存在論的恐怖(自分の死が避けられないという認識から生まれる恐怖)を和らげる機能を持つ、という想定に立つ理論です。そして、人が自尊感情の獲得、自文化の優越性の主張、また他者との関係の維持形成に動機づけられているのは、それらが存在論的恐怖への対処のために必要だからだと主張します。つまり、存在脅威管理理論は人間の社会的行動を存在論的恐怖という点から統合的に説明しようとする理論なのです。
 実際にこれまで、数多くの実験で、存在論的恐怖について考えることが自尊感情の高揚反応(自分のことを肯定的に捉えようとする反応)、文化的世界観の支持・防衛反応(自分の文化の価値を善きものだと考え、それに同一化しようとする反応)、他者との関係希求(他者との関係を形成あるいは維持しようとする反応)を強めることが示されています。また、自尊感情が高まっていたり、自分の文化を善きものだと思えていたり、他者との良好な関係を信じられていたりする状況では、存在論的恐怖に関連する思考が思い浮かびにくくなることも明らかにされています。

文化的世界観の防衛や自尊感情の追求に潜む危険

 文化的世界観の防衛や自尊感情の追求は、しばしば否定的な結果を導きます。文化的世界観の善し悪しは客観的に決めようのないもので、せいぜいそれを支持する人が多いということを以って主観的に善いと信じることしかできません。そして、自分と異なる文化的世界観を持つ外集団の人々は、存在するだけで文化的世界観への脅威となってしまいます。また、外集団をけなし、それとの対比で自集団を肯定的に評価するのは、自尊感情を高めるための安易な方法です。そのため、存在論的恐怖が意識されると、人は外集団を否定的に評価し、排斥しようとしてしまうのです。
 存在論的恐怖が外集団排斥を生じさせることは、実験研究で繰り返し示されています。さらに、2001年9月11日の同時多発テロ後のアメリカで政治的保守性が強まり、イスラム系の人々を対象としたヘイトクライムや差別が増えたことは、文化的世界観防衛の負の側面が重大な社会問題につながりうることを如実に示しています。
 東日本大震災以後の日本についても、存在論的恐怖の影響という点から解釈することができる社会的事象があります。例えば、震災直後に「不謹慎」という言葉で様々な活動を自粛させようとする風潮や、節電しても東北や関東への送電に寄与しない地域で節電を呼びかけるチェーンメールが出回ったり、実際に節電が行われていたりしたことは、絆という言葉に象徴される当時の世界観への同調を求める反応だった、と解釈できる側面があります。また、一部で外国人排斥運動が激化していることにも、存在論的恐怖が影響していると考えられます。

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