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2025.05.08

「闇バイト」の指示役はいかなる罪に問われるか——「共同正犯」の法概念から考える

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指示役と実行役との「共謀」の有無が重要

 たとえば、ある暴力団の組長が、「対立する暴力団の若頭を殺害しろ」とヒットマンに命令し、それが実行されたとします。このケースでは、組長は現場で犯罪行為を行なっていませんが、その命令をもって共同正犯とする考え方が一般的です。

 このとき、確かに若頭を殺害したのはヒットマンであり、組長は殺人という犯罪を分担して行なったわけではありませんが、そもそも組長の命令がなければ犯罪は実行されていなかった点が重要です。組長から見ると、自分の利益のために命令しているので、たとえ現場で直接殺害していなくても共謀はしており、その犯罪の全体について大きな寄与をしているのはむしろ組長であると判断されるのです。

 以上から、昨今の「闇バイト」では、人を欺く者(首謀者)と出し子・受け子との間に共謀があるのか否か、SNSでのやり取りだけで(対面して犯罪を計画することなしに)詐欺罪の共同正犯を認めることができるのか否かが問題となると思われます。

 もっとも、SNSにおける通信のやり取りからも犯罪を立証することは可能でしょう。この場合、発信者の指示どおり行動しているかどうか、その前後に被害者宅に欺く内容の連絡が複数回あったかどうかといった、やり取りの履歴や証言等の証拠の有無が裁判では重視されるでしょう。

 なお、仮に「たんに封筒に入ったキャッシュカードを受け取るだけだと思っていた」あるいは「指示されたとおり他人の口座から現金を引き出すだけだと思っていた」などと言い訳しても、そのような行動自体が社会的に見て不自然な行動であり、これだけ特殊詐欺自体(犯行形態を含めて)が社会的に認知されている以上、受け子・出し子が未成年といえどもその一端を行っていることの認識は持ちうるといえます。

 強盗の場合は、首謀者・指示者は現場にいませんが、その指示を受けた者たちは、全員で他者の住居に侵入し、被害者に暴行・脅迫を加え、金員を奪取していることから現場にいた者たちに強盗罪の共同正犯が成立することはいうまでもありません。

 また、首謀者たちが捕まった場合にも強盗罪の共同正犯が成立することとなります。現場にいないことが多い首謀者にも強盗罪の既遂が成立するのはなぜか、と疑問を持たれるかもしれませんが、相互利用補充関係が現場にいない首謀者と実行者との間に存在する以上、共同正犯が成立するのは当然だと思われますし、そもそも首謀者の指示・命令がなければ実行者らが強盗を行うこともなかったわけですから、犯罪全体に向けた首謀者の「寄与の度合い」は非常に大きかったといえるのです。

 その意味では、実行者たちを車両によって現場に送り届け、犯罪終了後は逮捕を免れさせるために安全な場所まで運転役を務めた者にも、実行者と運転役との間に相互利用補充関係が認められるかぎり、強盗既遂罪の共同正犯が成立するのは当然といえます。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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