2024.03.14
- 2021年9月15日
- ビジネス
プロ野球の熱狂は人になにをもたらすのか
水野 誠 明治大学 商学部 教授
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政治や宗教の世界で、人々を扇動し熱狂させることで、大きな事件や問題が起こることが多々あります。一方で、ファンづくりや、ファンによる熱狂をマーケティングに活かそうという動きもあります。人はなぜ熱狂するのか。プロスポーツのファンの熱狂から、それを探る研究があります。
人はなぜ熱狂するのか
「熱狂」とは日常的な現象を指す言葉で、よく使われる言葉でもあると思います。例えば、政治や宗教、経済、マーケティング、音楽や映画などのエンターテインメント業界でも使いますし、スポーツのチームのファン集団、ファンダムについても使われます。
しかし、熱狂とはなんであるかを考えると、その答えは意外と難しいのです。
例えば、人がある現象に対する感情を共有できる人たちと仲間意識をもち、その感情を仲間とともに高揚させたり興奮させていくとしても、なぜ、感情を共有できる仲間ができるのか。逆に、仲間がいるから同じ感情を共有できるのか。
さらに、熱狂は私たちになにをもたらすのか。それは、ときと場合によって、私たちにとってはプラスにもマイナスにもなるはずです。
しかし、私たちは、おそらく、熱狂している状態を嫌だとは思っていません。例えば、私たちは、仲間の形成やファンづくり、それによる熱狂を意図的に目指すことがあります。
ところが、政治や宗教の世界では、その度が過ぎると、暴動が起きたり、テロや戦争などの殺戮行為に繋がることもあります。
経済の分野では、バブルやその崩壊を人々の熱狂という観点から捉えようとしたり、マーケティングの分野では、ファンを育成してブランド・ロイヤリティを高めることを目指したりしますが、そのメカニズムは充分に捉えられていません。
つまり、私たちは「熱狂」を解明できているわけではないのです。
そこで、熱狂を研究するために、私たちはプロスポーツに注目しました。プロスポーツのファンダムによる熱狂は日常的に発生していて、しかも、ほぼ平和的な現象であることが多いからです。
もちろん、中南米などでは、サッカーの試合をきっかけにして戦争が起こったり、試合中にミスをした選手をファンが射殺するような事件も起きていますし、ヨーロッパでもフーリガンと呼ばれる人たちが問題行動を起こすことがあります。
しかし、例えば、日本のプロ野球などではそのようなことはあまり起きていません(もちろんたまにトラブルはありますが…)。
スタジアムという空間に、連日、数万人のファンが集まり、ひいきのチームをそれぞれのファンが応援しています。ひいきのチームが得点したり、ピンチを防いだりするたびに、そのファンダムは同時に熱狂し、最後に試合に勝てば、大きな熱狂が沸き上がります。
私たちは、この熱狂のメカニズムを捉えたいと考えました。