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プロ野球の熱狂は人になにをもたらすのか

水野 誠 水野 誠 明治大学 商学部 教授

プロ野球のファンの熱狂を調査

 プロ野球のファンの熱狂度について調査するためには、様々なアプローチがあります。私たちが以前行った研究については、『プロ野球「熱狂」の経営科学』という本で紹介しています。その結果は興味深いものでした。

 私たちは、チームに対する熱狂度合いを測るために、政治学などで行われている感情温度の手法を用いました。これは、単に好きか嫌いを聴いたり、その程度を5点法などで答えてもらうのではなく、感情を温度にたとえて0から100度までで答えてもらう方法です。

 それを集計してグラフ化すると、巨人ファンの場合、自チームに対する感情温度は70~79度がピークで、そこから両サイドへいくほど低くなります。つまり、釣り鐘型になります。

 ところが、広島ファンと阪神ファンでは、自チームについては100度にピークがある、歪んだ形になったのです。釣り鐘というより滑り台です。こうしたファン感情は、当然、チームに対する熱狂の強さを表しています。

 さらに、これら2チームのファンの感情温度は、お互いに対しては概ね釣鐘型であるのに、巨人に対してだけは、最も反感が大きい10度以下にピークがきます。

 つまり、ファンの感情は、何を敵とするかによっても変わるのです。

 また、この本には心理学の研究者による章もあり、そこでは困っている人を見かけたときに人はどういう行動をとるか、という実験が紹介されています。実は、困っている人が自分の好きなチームのファンだとわかると、そうでない場合に比べて、相手を助ける度合いが増えるのです。

 これは、内集団ひいきとか、内集団バイアスと言われる現象です。自分が所属する集団の仲間に対しては好意的な認知や感情、行動を示しやすい傾向があることが知られています。

 内集団が国や民族であったり、地域コミュニティや勤める会社であると理解しやすいと思います。プロ野球の特定のチームのファンであることも、それなりの強さを持った内集団を形成し、そこに属することは熱狂を生む大きな要因となります。

 また、マーケティングの面から見ると、チームへの感情温度の高い人ほど、球団に多くのお金をもたらしていることがわかりました。チケットを購入してスタジアムに来る回数が多く、球団グッズなどもよく購入するのです。

 例えば、広島球団は、新人選手が初ホームランを打ったとか、エースピッチャーが100勝目を挙げたなど、様々な理由で年に何度も記念Tシャツを販売したりします。すると、熱心なファンはそのたびに購入するのです。当然、実生活では、そんなにたくさんのTシャツは必要ありません。

 しかし、ファンはそれを購入すること、それを着てスタジアムに行くことで、それが、自分が熱心なファンであることの表現になっているのかもしれません。

 それは内集団の繋がりを強めることになり、それによって、また、熱狂の度合いが高まるのかもしれません。

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