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既存設備の上手なシェアリングから新たなシステムが生まれる

町田 一兵 町田 一兵 明治大学 商学部 教授

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現代社会は、ICTの発展によって大きく変容したと言いますが、製造業やロジスティックスの世界も、いま、大きく転換しています。その根底には人々のニーズの変化があります。それをいち早く捉え、新たな提案をしていくことが、企業の戦略にとっても行政の施策にとっても、重要です。

価値観の変化に対応するシェアリング

町田 一兵 交通に関する研究を行っている私たちにとって、いま関心をもっているものにシェアリングエコノミーがあります。それが、交通の仕組みにも大きな影響を与えているからです。

 例えば、もう10年以上前から、特に、都会の若者に車離れが起き始め、それは一時的なものではないことがわかり始めました。

 大都市圏の公共交通が比較的に充実していることもありながら、要因のひとつは、自家用車に対する価値観が変わったことです。車の購入金や維持費などを考えると、割に合わないということを、若い世代ほど気づき始めたということです。

 もちろん、車の需要がまったくなくなったわけではありません。そこで、当初は週末のレジャーや、飛行機や鉄道などで移動した先で使うレンタカーから始まり、さらに、日常的に、使いたいときだけ気軽に使えるカーシェアリングへと、車の使い方が多様化してきたのです。

 その背景にあるのは、価値観の変化です。収入が伸びなくなっていることもあります。収入が右肩上がりであった高度経済成長の時代は、マイカーは移動手段のツールであるだけでなく、ある種の自己表現やステイタスの証でした。

 しかし、経済成長が止まった現在では、支出の優先度はむしろ通信費など、別の使途にウェイトを移しつつあり、また、移動ニーズの個性化や多様化が進む中で、車を所有するだけでそれに対応するには限界があります。すでにマイカーを持つことは個性や自己表現のツールではなくなっているのです。

 交通は、派生需要という考え方があります。A地点からB地点に行って、なにかをすることが本来の目的である場合、移動するための手段は、実は、なんでも良いのです。人は、より早くや、より安く、より楽にといったコストとベネフィットを権衡しながら、自分の意志に適した交通を選択しているわけです。

 その選択の中で、マイカーを持つ価値が「割に合わない」と捉えられるようになり、むしろ、シェアリングが選択されるようになってきたのです。

 このニーズの変化に、自動車メーカーも対応しようとしています。例えば、シェアリング用に車を販売したりして、国内自動車販売台数よりすでに海外の方がはるかに多いことは、日本国内を考えてもさきがないことです。

 要は、高度経済成長期に、そのときのニーズに対応して構築されてきたシステムが、低成長や人口減少、高齢化によるニーズの変化に新たな対応策が求められるようになり、自動車関連業界全体に自動車が生まれる価値の再考を余儀なくされているわけです。

 しかし、ここで大切なのは、まったく一から新たなものを構築するのではなく、既存の設備をどう活かすのかを考えることです。一からの構築では経済的負担が大きくなるし、変化への対応も遅くなります。

 その意味では、いまある自家用車を、新たな使用方法として提案していく仕組みは、新たな価値観に対応するアプローチと言えます。

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