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パリ・コレに見る、「一流ブランド」の真価

東野 香代子 東野 香代子 明治大学 商学部 特任講師

9月24日から10月2日まで、来年の春夏の新作を発表するパリ・コレクションが開催されました。日本でも高い注目を集める催しですが、発表される新作ファッションだけでなく、会場の観客席や、その背景で起こっていることにも注目してみると、社会の動向や私たちの生き方に繋がるものが見えてくるといいます。

変わるフロントロウの招待客

東野 香代子 パリ・コレは華やかなショーですが、その目的は決してお祭りではなく、来シーズンの新作をビジネス関係者に展示して売り込むための、いわばビジネスイベントです。

 したがって、会場で見ている人たちは、もちろんブランドが招待するのですが、消費者である一般の人たちではありません。ブランドが契約するハリウッドのセレブも招待されたりしますが、中心は、ファッションビジネス関係者やジャーナリストです。

 すると、面白いのは、そのとき経済力のある、つまり自分たちのブランドをたくさん買ってくれる購買力の高い国のバイヤーやジャーナリストの人数が多かったり、良い席が与えられたりと優遇されることです。

 1980年代前半までは、フロントロウにはヨーロッパやアメリカのバイヤーやジャーナリストが多く、日本人はチケットを入手することはできても、柱の陰の席とか、席がなくスタンディング(立ち見)だったりしました。

 ところが、80年代後半から日本人も徐々に優遇されるようになります。その頃の日本の消費者は、日本国内市場でブランド品を買うだけでなく、プラザ合意後の円高の恩恵を受け、海外旅行先でも買いまくっていたからです。

 それが、近年では中国に変わっています。実際、銀座や表参道などの海外ラグジュアリーショップでは、中国語を話せる販売員が最低1人はいるようになっているのですから。

 このように、パリ・コレの会場に招かれた人たちを見ると、いま、どこの国の経済力に強さがあるのかが見えてきます。

 もうひとつ、近年の招待客の変化は、ジャーナリストです。以前は、新聞やファッション雑誌などの編集者が多く招かれていました。いまでも、最も良い席はアメリカンヴォーグのアナ・ウィンターです。

 しかし、1990年代の後半から、ブロガーと呼ばれる人たちが招待されるようになってきました。一見、ファッションとは縁遠い格好をした彼らは、しかし、デジタルインフルエンサー(デジタルツールにより購買決定に影響を与える人)として、一般購入者に与える影響力は大きく、ブランドもそれを無視できなくなったのです。

 いまでは、どこのブランドも、広報やPRの部門にデジタル関連の知識とスキルをもった人材を求めるようになっています。また、ストリートセレブと呼ばれる人たちが招待されるようになったのも大きな変化です。

 特に、セレブやモデルの影響が大きくトレンドに反映されるトリクルダウンのレディスに比べて、ストリートファッションからのトリクルアップが近年の傾向であるメンズでは、老舗ブランドでも、ストリートファッションの世界からデザイナーを抜擢するケースが多々あります。

 時代とともに富裕層の好みは変化し、一流ブランドの顧客でも、ラグジュアリーなストリート系のファッションを好む傾向が出てきました。ブランド側もトレンドとして、それは無視できないのです。

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