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パリ・コレに見る、「一流ブランド」の真価

明治大学 商学部 特任講師 東野 香代子

ファッションの魅力は、周りを照らすブランドという太陽があること

東野 香代子  昨年の秋、大手通販会社がファッションデザインを作るAIの構想を発表しました。これが本当に実現するのかは不明ですが、実は、ファッションの小売りの分野ではすでにAIは積極的に取り入れられています。

 その一つの例として、CRM(顧客管理)により、顧客ごとに最適なアイテムをレコメンドするシステムです。

 先に述べたセミナーのために、いまは人がやっている、1万点のルックを分類、整理するという非常に大変な作業も、AIならあっという間でしょうし、さらに、それを基に、そのテイストを薄めて商品を作るという仕事は、薄める度合いが重要で、現在は商品企画をする人の勘と経験に頼っています。

 AIであれば、顧客データはもちろん、景気の動向や過去の流行の動きなど、必要なデータをいくらでも詰め込み、薄める度合いをはじき出し、万人向けにでも、ファッション好きの消費者に向けてでも、売れるファッションを作ることは可能だと思います。

 しかし、このストーリーはどこかおかしいと思わないでしょうか。できあがったデザインの模倣を人がやるにせよ、AIがやるにせよ、その出発点には、ブランドのコンセプトに自分の世界観を投影し、必死の思いでオリジナルの作品を生み出しているクリエーターがいるのです。

 過去から現代へと脈々と続く彼らの存在がなければ、そもそもファッションは成り立っていないのです。

 最近、一般人も月旅行ができることが話題になっています。確かに、夜空にひときわ大きく、美しく輝く月は、人の心を魅了します。でも、近づいて見れば、石ころだらけの殺風景でつまらない天体です。

 月が美しく見えるのは、太陽が照らしているからです。私は、この太陽が一流ブランドであり、その輝きはファッション業界や周辺の産業をくまなく照らし、消費者に対して美しく見せていると思っています。

 「ファッション」という言葉には、人を幸せな気持ちにしたり、夢を与えたりする力があります。それは、人がなにかを創造することの素晴らしさを、人は知っているからだと思います。

 その意味では、売れ筋で着やすい感のある「月に行く」のではなく、すごく危険だけれど「太陽に行く」気概を、多くの若いクリエーターたちにもってもらいたいと思っています。

 デジタル化社会へ加速する昨今、ラグジュアリーブランドは伝統を守りながら生き残れるのかという問題について、デジタルは人の感性を鈍くするといわれますが、そうとも限りません。例えば、人を感動させる写真をインスタグラムにあげている人は、その空間を五感で感じていて、その思いが画像になるから、見る側も感動するのではないでしょうか。

 もちろん、写真には音も匂いも触感もありませんが、見る側にも五感の体験があれば、インスタからその記憶が引き出され、それが感動に繋がるのだと思います。

 ファッションも同じで、デザイナーの五感を、自分の記憶から引き出せるような体験がある顧客は、そのブランドの放つオンリーワンの世界観を感じることができると思います。

 その意味では、社会環境がどう変わり、それにどう対応しようと、振り回されようと、普遍の原点をもっているのがブランドであり、ラグジュアリーブランドが廃れるのか、これからも太陽のように燦然と輝いていけるのかは、その原点を感じる五感が、私たちから廃れるのか否かなのかもしれません。

 でも、最近増えてきているように感じる、大量生産のファストファッションを嫌い、ヴィンテージを好み、服をカスタマイズする若い人たちを見ていると、それは杞憂なのかもしれないと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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