明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

パリ・コレに見る、「一流ブランド」の真価

明治大学 商学部 特任講師 東野 香代子

社会のデジタル化への対応に振り回されるラグジュアリーブランド

 このように見てくると、クリエイティブな作品と一流のモデルが集まり、凝った演出も行われる、とても華やかなお祭りのようなパリ・コレも、熾烈なビジネスの現場であることがわかってきます。各ブランドは、自分たちの存続や維持のために様々な知恵を絞っているのです。

 それは、社会の変化に対応したような、招待客の変化だけでありません。例えば、コレクションをライブで配信する試みも始まっています。一般の人は会場には入れませんが、生中継の映像を見ることができるのです。

 一見、社会のデジタル化に対応したサービスのようですが、実は、デジタル化による負の影響への対抗策のひとつなのです。

 以前は、パリ・コレの情報を報道するのは最も早いもので新聞、そのあとに雑誌が出ますが、ひとつの媒体に掲載可能なルックの写真には、点数や角度などに制限がありました。それは、来年の春夏にブランドが売り出される前に、コピー商品が作られることを防ぐためです。例えば、ひとつのルックの前と後ろの写真は同時掲載しないなど。

 しかし、そのルールもいまや有名無実になっています。フロントロウに並んだ招待客たちがスマホで写真を撮りまくり、それをリアルタイムで拡散しているのですから。

 また、コレクションの1ヵ月後くらいに「セミナー」を開催する業界紙もあります。そこでは、コレクションを取材したジャーナリストたちの撮った1万点におよぶルックを、色や傾向ごとに分類、整理して数を絞り込んだ写真集で見ることができます。

 決して安い受講料ではありませんが、アパレル業界で商品企画をしている人たちはこぞってセミナーに参加します。そして、人気ブランドのトレンドを少し薄めて、ローカルマーケットの消費者が着やすいようにデザインを起こして、売り出すのです。

 さらに、いままではコレクション後に、有力バイヤーから注文を取り、その数量を目安に生産する仕組みでしたが、ショーの後、消費者にすぐ販売する動きもあります。

 もちろん、数は限定的ですが、売れるかどうかわからない作品でも、販売の用意をするリスクを負ってでも、ショーで見たものをすぐ買えるという「SEE NOW BUY NOW」の体制をとろうとしているのです。

 これはショーという華やかなイベントの直後に、SNSで盛り上がっている消費者の熱が冷めないうちに売上を立てる、という施策です。従来までのカレンダーに従うと、ショー開催から半年後に商品が店頭に並ぶことになりますが、そのときには、SNS上での熱狂はすでに過去のものになっているからです。

 もうひとつ、ここにはファストファッションへの対抗策という意味合いがあります。一流ブランドのデザインの「おいしい」ところだけをピックアップして、短いリードタイム(調達期間)でニセモノならぬニタモノを、すばやく店頭展開できてしまうのが、ファストファッションです。

 本家のブランドが半年後に新作を売り出したときには、一般の消費者の目には、もう見飽きたものに映りかねなくなります。そこで、先に、ブランドのオリジナルデザインが放つ輝きを、ライブで見せようというのです。

 近年のこうしたブランドの動きは、デジタルの発達をもう無視することはできず、取り入れようとする姿勢と、そのデジタルの発達とともに台頭してきたファストファッションに対抗しようと、振り回されるブランドの姿があるといえます。

ビジネスの関連記事

ブランド価値の向上が日本企業の課題

2020.7.8

ブランド価値の向上が日本企業の課題

  • 明治大学 経営学部 教授
  • 原田 将
「経営を見える化」する力が「ビジネス」を変える

2020.7.1

「経営を見える化」する力が「ビジネス」を変える

  • 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 青沼 君明
書店が本の価格を決めたら、本はもっと売れる!?

2020.6.10

書店が本の価格を決めたら、本はもっと売れる!?

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 浅井 澄子
より良い労働条件獲得のために、ストライキよりさらに有効なこと

2020.5.13

より良い労働条件獲得のために、ストライキよりさらに有効なこと

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 野川 忍
新しい価値を創出するイノベーションを育てるのは、私たち自身

2020.3.11

新しい価値を創出するイノベーションを育てるのは、私たち自身

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授
  • 山内 勇

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

特別授業

新着記事

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

2020.07.01

「経営を見える化」する力が「ビジネス」を変える

2020.06.24

子どもの権利を見落とす/教師の権利も見落とされる「ブラック」な学校

2020.06.17

インテリジェンス研究:安全と権利自由の「両立」をいかにして実現するか

2020.06.10

書店が本の価格を決めたら、本はもっと売れる!?

人気記事ランキング

1

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

2

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

3

2020.07.08

ブランド価値の向上が日本企業の課題

4

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

5

2017.06.14

現代の経済学では説明できない!? 縄文時代の持続可能性社会

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム