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2020.10.14

既存設備の上手なシェアリングから新たなシステムが生まれる

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「一帯一路」をシェアリング

町田 一兵 世界に目を向けると、中国の「一帯一路」政策が、世界の物流に影響を与えることに注目しています。

 「一帯一路」政策というと、政治的に捉えられがちですが、ロジスティックスの面から見れば、いままで交通インフラが遅れていた国や地域に、それが整備されていく政策でもあります。

 といっても、結局はメイドイン・チャイナの製品を世界中に売り広げるためだと思われがちですが、現代のグローバル・サプライチェーンの視点で考えると、違った見え方もしてきます。

 例えば、いま、日本の企業は世界中に進出しています。その進出先として多い国のひとつが中国です。特に、製造業にとっては、相対的に人件費が安く、軽工業から重工業まで網羅されている中国の環境は非常に都合が良いと言えます。その上、まぎれもなく巨大の市場でもあります。

 中国に立地する日系企業が作った製品の売上を販路別でみると、日本向け、中国現地向け、第三国向けに分けられ、中国現地向けと第三国向けが多いことがわかります。つまり、日本の製造業にとって、中国は生産に適した環境であり、市場としても、人口が減少し市場が縮小していく日本よりも魅力的であるということです。

 しかも、「一帯一路」政策によって、中国国内から、周辺国、ユーラシア大陸全域、アフリカ、ヨーロッパまで交通インフラが広がっていけば、日系企業にとっても第三国への販路が広がることになるのです。

 では、中国はどんなインフラ整備を行っているのか。それは数字でも見ることができます。

 例えば、中国の上海港で一年間に取扱うコンテナ数は日本全国のコンテナ取扱数よりも多いです。まさに桁違いです。

 中国は、このような港や空港、また、ユーラシア大陸を横断するような鉄道・道路の整備に、年々、莫大な投資をしているのです。日本の企業も、こうしたグローバル交通ネットワークに便乗しない手はありません。

 一方で、日本のものづくりが中国に流出し、国内の製造業が衰退してしまう懸念があります。

 しかし、日本をはじめ、先進国の市場がマスから個性化、多様化に向かったように、いま、広がり始めた途上国の市場も、早晩、そうした方向にシフトするでしょう。

 中国の製造業はマス向けの大量生産が得意であり、いま、そのニーズが世界中にあるために、中国はグローバルな物流インフラの整備を進めているのです。

 でも、将来を考えれば、日本は高付加価値のあるものづくりや研究開発力を磨いていくことで、存在感を継続的に発揮できると思います。

 かつて、メイドイン・チャイナの大型冷蔵庫がアメリカにどんどん輸出され、対米貿易で中国の躍進が始まった頃です。ところが、この大型冷蔵庫のコア部品である高性能コンプレッサーを作っていたのは日本の企業でした。もちろん、このコンプレッサーはこの冷蔵庫の最も高付加価値の部品です。

 つまり、一見すると、大型商品を大量に輸出していた中国企業が目立ちますが、実を取っていたのは日本企業だったのです。

 日本の独自性や、高付加価値をつくり出す開発力や技術力、そして、ていねいなものづくりは、日本の大きな特徴です。これを活かすために、日本自身が一からグローバル物流インフラを整備しなくても、いま、中国が整備を進めています。

 政治的な意図は別にして、ビジネスの世界でそれに便乗するシステム、すなわちシェアリングを考えるのも、日本にとってうまく利用する戦略になると思います。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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