知られざる農業研究の最前線、“明治大学黒川農場”潜入レポート

10年以上も続けてきた有機栽培・自然栽培の実績が研究のタネに
中圃場から少し離れたエリアにあるのが有機栽培圃場です。ここでは、約20品目の野菜を化学肥料や化学合成農薬を使わずに育てています。こちらのエリアは、農作業を楽しみながら有機栽培などを学べる社会人向けの公開講座「アグリサイエンス講座」でも活用しています。
「有機栽培はとても手間がかかるうえ、少ししか採れないと思われがちですが、そうではないことが経験できます」と語るのは、社会人講座の講師も担う武田甲特任准教授。慣行栽培よりは少ない収量となるが、かなりの収量があるというから驚きです。
中圃場と有機圃場(写真右のエリア)の間は、化学肥料が影響しないようにと、有機JAS認証が定めた幅の通路で隔てられている
さらに開場以来、完全な無肥料・無農薬栽培を続けてきた自然栽培圃場での栽培体験も、社会人講座では行っています。土を耕さず除草もせず、虫にも食べられるがままにしておくのですが、手を加えないことで天敵も温存できているからなのか、ある程度の食害でストップするそう。ミミズも多く、そのフンも還元されているため土質が非常に柔らかくなり、おいしい野菜ができています。
「大学の施設で、すでに10年以上も有機栽培や自然栽培を継続できてきた農場は珍しい」と武田准教授。長年のバックグラウンドがあるため、“研究のタネ”も多く詰まっているのだとか。「有機栽培は、もはや経営上の選択枝の一つとして無視はできない時代になりつつあります。そのノウハウは、家庭菜園にも活用できます」と力を込めます。
研究紹介 vol.04
農薬なしで被害を防ぐ手法を見つけ、持続可能な農業の実現へ
近隣農家に多い、梨のハダニ被害の軽減法を探っています。ハダニはとても小さく、見つけるのが困難です。しかも1~2週間で100倍にもなる爆発的な増え方をします。さらには薬剤抵抗性が非常に早く出てしまう。そのため農薬ではなく天敵を使うのですが、天敵を放つタイミングも難しい。ハダニがいないときに放ってしまうと餓死しますし、増えすぎてから放っても追いつかないからです。
そこで、デジタルカメラで撮影した葉の画像に対し、RBG値(色情報)の一部を色環の反対色に置き換えることで、ハダニの食害を初期段階で視認できるようにしました。この技術をアプリに転用すれば、スマホで撮影してハダニの有無を確認することも可能になります。
都市農業においては、大がかりな設備投資を行わず被害を防ぐ工夫が大切です。化学農薬は、人口増加に堪えうる生産量を実現させた反面、健康や環境への影響も少なくありません。持続可能な農業を実現するには、農薬の代わりに天敵を生かすなど、より自然に近い環境下での栽培に軸足をシフトする必要があると考えます。

武田甲 特任准教授

梨の葉につくハダニ。約0.4mm~0.6mmと非常に小さい
多様な環境問題や食糧問題、資源の枯渇問題の解決に向けて
ほかにも多彩な施設やスポットがある黒川農場。展示温室では、バナナやパパイヤ、パイナップルやドラゴンフルーツなど、亜熱帯の果樹を栽培しています。生涯学習用に造られたアカデミー棟は、国産の木材のみを使用した木造建築。主には神奈川県産の杉が使われています。
ビオトープを中心とした自然生態園では、里山の生態系も観察できます。一方、農学部の里山実習では下草刈りや落ち葉かきなど、里山の伝統的な管理作業を体験。自然の成り立ちを知り、大きくなり過ぎた木を伐採して雑木林を若返らせることも学んでいます。このような作業を開所後から実施してきたおかげで、原植生が回復してきているようで、珍しい植物も見られるようになってきたそうです。
関連リンク:明治大学黒川農場
さまざまな施設を有する黒川農場では、一般見学も受け入れている。詳しくはこちら
地球温暖化をはじめとする多様な環境問題や食料問題、資源の枯渇問題に直面している現在、農業の果たす役割の重要性が再認識されるようになりました。都市部でも展開でききる生産効率の高い栽培システムと、持続可能な環境保全システムを軸に、研究を進めている黒川農場。その成果を現場で展開することで、食料資源の安定供給や有効利用、すべての生物の生存に適した自然環境の整備に寄与することをめざしています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。