コンセプトは永遠に到達できない
では、マーケターはどうやって消費者の困りごとを見つけ、解決する価値を生むのか。実は、こうすれば良いという普遍的な手法はありません。世の中にはさまざまなマーケティングの調査・分析サービスが存在しますが、極端に言ってしまえば、そんなものはなんでもいいんです。消費者の問題を見つけて、その解決さえできれば。
したがって、どれだけ技術が発展し、社会の価値観が変化しても、マーケターに普遍的に求められることは、常日頃から消費者の活動・心理状況を観察し、そこから困りごとを想像し、見つけることです。この世から困りごとがなくなることはありえませんので、必ず今この瞬間にも存在しています。つまり、物事や状況を第三者として客観的に捉えたのちに、今度はそれに関わる人の立場で主観的に問題を考えます。それが、自分では経験したことがないことでも、その人自身になりきって想像し、考えるのです。1人の人間がすべての人の経験をすることは不可能ですので、マーケターは自身の経験がない状況の人のことも想像する力が不可欠です。
この思考を深めていくと、ここにはこういう困りごとがあるのではないか。だったら、こういう解決策があるのではないかという、いわば、自分なりの仮説が立てられます。それをさらに深めていき、コンセプトに昇華させます。
マーケティングにおけるコンセプトは、消費者が喜んでお金を出してくれる価値(=実用的・心理的な問題の解決)を言語化して企業全体で共有するとともに、消費者に対しても商品・サービスの存在意義を認知してもらう役割を果たします。コンセプトを策定する時のポイントは、「コンセプトは永遠に到達しない」と認識することです。すぐに達成できるコンセプトでは、即座に競合に真似され、たいした価値になりません。永遠に到達できないほどの問題解決を掲げ、一歩ずつその達成度を一貫して高めていく。この時間的蓄積が商品・サービスのブランドを構築し、競合他社は追いつけなくなります。「夢と魔法の王国」を掲げるディズニーランドについて「永遠に完成しない。この世界に想像力が残っている限り、成長し続ける」とウォルト・ディズニーが語っているとおりです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。