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2019.12.13

#3 敵対的TOBの成功って、乗っ取り成功のこと?

#3 敵対的TOBの成功って、乗っ取り成功のこと?
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悪いイメージを抱かせない、日本的な敵対的TOB

今年の3月、大手商社が、スポーツウエア大手の企業に対して敵対的TOBを行い、成功しました。敵対的TOBが国内主要企業間で成立したのは、これが初めてと言われます。

実は、この商社とスポーツウエア企業はもともと敵対的な関係であったのではなく、むしろ、商社側がスポーツウエア企業の数回の経営危機を救うなど、長年、支援してきた関係でした。

しかし、スポーツウエア企業が経営陣によるMBOで非上場化を企図し、それを知った商社側がTOBに踏み切ったと思われます。もちろん、その過程では、取引上の問題や軋轢、経営方針の対立などもあったのだと思います。

実は、銀行は、この商社のイメージが悪くなることを心配して、敵対的TOBを行うことに反対したと言います。それでも、敵対的TOBに踏み切り、成功したポイントはいくつかありますが、ひとつは、株式買い付けの上限をわずか9%としたことです。

実は、欧米ではTOBを実施する際、買い付けの上限を設定することはできない規定になっており、売却希望の株式をすべて購入しなくてはなりません。

それは、TOBを仕掛ける側にとっては資金的なリスクになり、結果的に、TOBを仕掛けることを抑止する仕組みになっているのです。

それに対して日本では、66.7%以上の取得、すなわち支配権を目指す場合は上限を設定できませんが、それ以下であれば、上限を設定でき、それを超えた株式は買い付けなくても良いのです。すなわち、資金計画が立てやすくなります。

しかも、今回のケースでは、TOB前にスポーツウエア企業の30.44%の株を所有していた商社が発表したのは、わずか9%の買い付けでした。資金的な負担は非常に少ないわけです。

しかし、これでは、買い付けに成功しても過半数に達しません。でも、スポーツウエア企業の株を10%程度保有する別の企業がこの商社と「仲間」で、経営方針などで同調するのであれば、9%の取得で充分ということになります。

ある意味、この商社は、スポーツウエア企業の経営方針に対して反対している仲間が他にもいることを一般の株主たちに示すことで、TOBによる乗っ取りのような悪いイメージを抱かせないようにしたとも言えます。

つまり、このTOBは、とても日本的な敵対的TOBであったと言えるかもしれません。

次回は、実際に起きた敵対的TOBの失敗例について解説します。

#1 M&Aってどういうこと?
#2 TOBってどういうこと?
#3 敵対的TOBの成功って、乗っ取り成功のこと?
#4 敵対的TOBが成功しない理由は?
#5 TOBもM&Aも、一般の生活者には他人ごと?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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