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#5 私たちは人類の大転機にいる?

金子 隆一 金子 隆一 明治大学 政治経済学部 特任教授

少子高齢化は、人類の新しい文明のスタートかもしれない

前回、年齢で一律に老後と決めるのはおかしいという話を述べました。

でも、65歳まで40年以上働いて、もう休みたいと思う人もいるでしょう。もちろん、それもひとつの選択です。要は、自分の人生は自分で決めれば良いのです。

定年後、おそらく30年以上ある時間を、なにもしないで過ごすのも、自分のプロダクティビティを発揮し続けるのも、それを決めるのは、あなた自身なのです。

社会制度は、一人ひとりのそうした多様な選択を実現できるよう支援することが理想なのです。

人生が長くなったということは、素晴らしいことです。子どもが自立するまでは家族のために働いて、それを終えたら、今度は自分の好きなことを始める、というようなこともできるのです。

人生70年くらいの時代の発想に縛られたままでいるから、年金が足りないとか、長寿はリスクなどと考えてしまうのです。でも、社会のパラダイムは必ず大きく転換します。私たち一人ひとりも新たな発想をもつべきです。

とはいえ、高齢になれば健康が心配という人も多いでしょう。確かに、高齢者の健康度は平均的には急速に高まっていますが、個人差が大きいのも事実です。

しかし、弱ったり障害を持つようになったとき、それを支援する新しい技術も次々と開発されています。

例えば、いま、メガネという技術があるおかげで、少々の近視や遠視なら、なんの不都合もなく社会で活動できます。それと同じように、身体機能の様々な不具合を補う技術が進歩して普及すれば、その不具合はもはや障害とは呼ばれないわけです。

そうした技術の開発を促進させるのも、私たち一人ひとりの、活動したいという意欲なのだと思います。

そうした発想は高齢者に限らず、なんらかの制約をもっているすべての人の社会参加を広げることにも繋がります。

すると、「高齢化社会」というのは、すべての人、一人ひとりの生き方を支援する未来社会を実現していくための、試金石なのだとも考えられます。

歴史を振り返ると、人類は、狩猟採集、農耕、産業革命など、幾度かの大転機にともなって新たな文明を築いてきました。少子高齢化も、人類が辿る必然の大転機なのかもしれません。幸か不幸か、その突破口に日本が最初にたどり着いています。

日本がこれからつくっていく社会の形が、人類の新しい文明のスタートになっていくのかもしれません。その形は、いまの私たち一人ひとりの考え方にゆだねられているのです。

#1 少子高齢化による人口減少が問題なのはなぜ?
#2 日本の家系の半分は消滅する?
#3 社会保障制度は、人がつくるもの?
#4 65歳は老後じゃない?
#5 私たちは人類の大転機にいる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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