2024.03.21
- 2019年10月8日
- リレーコラム
#3 社会保障制度は、人がつくるもの?
金子 隆一 明治大学 政治経済学部 特任教授新しい設計やビジョンを、みんなで議論し、検討し、模索することが必要
前回、私たちは新しい社会のあり方について模索しなければならないと述べましたが、社会のあり方や仕組みを根本から新たに変えることなどできるのか、と思う人も多いと思います。では、社会保障制度について考えてみましょう。
実は、このような仕組みは自然界には存在しません。高齢の仲間を若手が支える、などという動物は人間以外にいないのです。
この仕組みは、人が人為的に設計したものです。なぜ、人だけがそのような制度をつくることができたのかと言えば、それは、生産に余剰があったからです。生産年齢の層が食べても余りがあるほど生産できたので、高齢層を支えることができたのです。
特に、産業革命以降の拡大型の資本主義の中で、余剰を出し続けることができるということが、現在の社会保障制度の前提になっているわけです。
ところが、20世紀の末辺りから、人口も経済も拡大するという前提が崩れ始めてきました。これでは、産業革命以降、250年続いてきた仕組みが行き詰まるのも当然です。だから、新たなあり方を、私たちが設計しなければなりません。
しかし、これだというビジョンは、まだ、誰ももてない状況です。
例えば、AIやロボットなどの技術革新によって余剰生産を生み出し、高齢者を支えるという発想もあると思います。
また、「地方創生」キャンペーンなどのように、各地域の人々が危機感をもち、それぞれの地域の特性に適したアイデアを必死になって考え、地域活性化を図る取り組みもあります。
高度経済成長期、それまで日本社会で大きな役割を果たしていた地域コミュニティがどんどん衰退してしまいましたが、地域活性化とともにそうしたコミュニティが復活することは、これから増える1人暮らしの高齢者を支える基盤としても重要です。
こうした取り組みは地域間の競争でもあるので、すべての地域で大成功とはいかないでしょう。地域経済の持続可能性を担保するためには、地域間の交流や連携も必要になるでしょう。
いずれにしても、いま、必要なのは、人口・経済・社会保障システムの新しい設計やビジョンを、国民全体で議論し、検討し、模索することなのです。
次回は、老後についての考え方について解説します。
#1 少子高齢化による人口減少が問題なのはなぜ?
#2 日本の家系の半分は消滅する?
#3 社会保障制度は、人がつくるもの?
#4 65歳は老後じゃない?
#5 私たちは人類の大転機にいる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。