増税によって普遍主義的な公共サービスを増やすことができる
日本は消費税を導入した際、物品税を廃止したり、高額所得者の大幅な所得税減税を行いました。それは、消費税導入に対する国民の反発を和らげるという政治的意図があったのだと思います。つまり、特に高額所得者にとっては、税金をたくさん払っても、それがどう戻ってくるのかわからない、という不満が高かったからでしょう。
例えば、無償の義務教育など、所得制限がない普遍主義的な公共サービスがある一方で、児童手当や高校の授業料無償化などは所得制限があり、高額所得者へのサービスは限定的です。
いつの頃からか、日本人には、子育てや高等教育に関わるサービスには所得制限があって当たり前、という意識が生まれています。これでは、サービスを受けられない人たちに、税金に対する不満が高まるのも当然です。払うばかりで戻ってこないと。
それに対して、スウェーデンをはじめとする北欧では所得制限を極力減らし、普遍主義的な公共サービスを行っているのが特徴です。一方で、高額所得者の所得税率は高いのですが、みんなと同じように公共サービスを受けられるので、払ったものが戻ってくる実感が得られ、不公平感も和らぎます。
つまり、日本は、減税によって少ない歳入でまかなうために、サービスや給付の対象者を極力減らすことで歳出を抑えようとしているわけです。
所得税には、格差是正の役割もあります。高額所得者には多く払ってもらい、それをみんなに再配分することで共助の意識が育まれ、税金に対する理解も高まります。
しかし、減税する代わりに受けられないサービスを設けるのでは、逆効果です。それに対して、払ったものが明確に戻る仕組みの「ふるさと納税」が盛んになっているのは、まさに、皮肉な現象です。
いま、私たちは、増税について、もっと深く考えるべきときにきています。税金がなければ自由に使えるお金が増える、というのは考え違いだし、増税は経済と生活に悪い影響ばかりというのも誤った常識なのです。
北欧のすべてが良いとは私も思いません。北欧で適したことがそのまま日本でも適するとも思いません。しかし、みんなが幸せを感じられる社会を作るために、ヨーロッパ並みの所得税や消費税を取り入れることは必要だし、政府の無駄を省くとともに、個人の家計の見直しも行い、多少のやせ我慢をすることで、少子化や高齢化が進む社会に適した公共サービス、本当に困った人が救われるサービスを提供することも必要なのです。
増税で可処分所得が小さくなっても、お金を使わずに楽しめる、幸せを感じる生活の方法はいくらでもあります。それこそ、北欧の人たちの生活に学ぶことができます。
#1 日本の少子高齢化は、さらに進むの?
#2 消費税の導入で生活者の負担は増えた?
#3 税金がなければ自由に使えるお金が増える?
#4 日本人は税金の意義を理解していない?
#5 増税によってみんなが納得できるようになる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。