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2025.07.03

AI時代におけるクリエイター・エコノミー:コンテンツ消費から共創へ

AI時代におけるクリエイター・エコノミー:コンテンツ消費から共創へ
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かつて、視聴者はコンテンツを「消費する側」でした。しかし、今やライブ配信や投げ銭の仕組みにより、視聴者もクリエイターの活動に積極的に関わる「共同創造者」へと変化しています。YouTubeやTwitchなどのプラットフォーム間競争も激化し、クリエイターの収益モデルは多様化。クリエイター・エコノミーの拡大が生み出した新たな現象を分析します。

クリエイター・エコノミーの世界市場は18.5兆円

田中 絵麻 近年、「クリエイター・エコノミー」という言葉をよく耳にするようになりました。学術的にはまだ明確な定義がないものの、一般的には、「インターネットやデジタル技術の発展によって生まれたクリエイターと視聴者の双方向の経済圏」を指すことが多いです。

 この概念が注目され始めたのは2010年代ですが、学術的な研究が本格化したのは比較的最近のことです。たとえば、学術誌における「クリエイター・エコノミー」という語の使用状況を見ると、2011年頃から使われ始め、当初は年間数件の論文しかありませんでした。しかし、コロナ禍に入った2021年には55件、2022年には292件と急増し、関心の高まりが明確に示されています(Google Scholar調べ)。

 市場規模についても、成長が加速しています。一般社団法人クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、2023年の世界のクリエイター・エコノミー市場は約18.5兆円(1ドル=145円換算)、日本国内でも約1.8兆円と推定されています(「国内クリエイターエコノミーに関する調査結果(2024年)」)。

 もともと、1990年代後半から2000年代半ばまでは、インターネット上の情報やコンテンツのほとんどは無料で提供されるのが一般的でした。特に、ネット上で広まった文化的なコンテンツは、お金を稼ぐというより、無料でシェアすること自体がインターネットのカルチャーとして受け入れられていました。

 しかし、この状況が大きく変わったのは2010年前後です。YouTubeなどのプラットフォームが、コンテンツを作成するクリエイターに対して利益を還元し始めたのです。YouTubeは2007年に「YouTubeパートナー・プログラム」を開始し、当初は大手メディア企業に限定していた広告収益の分配を、一部の一般クリエイターにも解放しました。

 これにより、YouTubeはオリジナル動画の投稿を促し、視聴者を増やし、コミュニティを発展させる狙いがあったのです。2012年にはこの条件がさらに緩和され、より多くのクリエイターがコンテンツの収益化に参加できるようになりました。

 こうした流れの中で、2014年頃には「YouTuber」として活動するクリエイターが爆発的に増加しました。たとえば、HIKAKINさんやPDRさんといった動画配信で高額な収益を得るクリエイターが登場し、YouTubeが新しい職業の場となったのです。

 ところが、クリエイターの数が増えるにつれて、YouTubeの広告収益の分配率は次第に低下していきました。2017年頃には広告単価が初期の10分の1以下になったとも言われており、トップクラスの配信者は影響を受けにくいものの、全体としてはクリエイターの収益が減少傾向にありました。

 こうした状況を受け、プラットフォーム側はクリエイターを引き留めるため、新たな収益モデルを導入しました。その代表例が「投げ銭(スーパーチャット)」です。スーパーチャットとは、視聴者が好きな配信者を応援するために、チャット機能を使って直接お金を送る仕組みです。単なる応援の気持ちを可視化するだけでなく、コメント欄と連携しながら金銭的支援ができるようになっています。

 また、月額制のサブスクリプション(メンバーシップ)も導入され、限定コンテンツを提供することでクリエイターは新しく収益を得られるようになりました。さらに、スポンサー契約やグッズ販売、ライブ収益、イベント出演など、多様な収益モデルを活用し、広告収益の減少を補うクリエイターが増えています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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