明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

日本発マンガ産業への提言 ―国際比較の視点から―

藤本 由香里 藤本 由香里 明治大学 国際日本学部 教授

はじまりは、少女マンガ

藤本由香里教授 私は子供の頃からマンガを、特に少女マンガを浴びるように読んできました。4歳の時からですから、これほど少女マンガを読み続けてきた人はあまりいないのではないでしょうか。大学卒業後は書籍編集者の仕事に就きましたが、外からの依頼に応じて少女マンガを題材とした評論を書くようになると、そこから女性のセクシャリティや価値観の変遷が見えてくることに気が付きました。
 たとえば、恋愛観の変化を例にとれば、そもそも恋愛というものが少女マンガで描かれるようになった60年代後半から現在に至るまでの少女マンガの世界の変化は、「性と愛と結婚の三位一体」という“ロマンティック・イデオロギー”が崩れていく過程であったといえます。たとえばかつて少女マンガで描かれる恋愛は、外国人の女の子が主人公で、恋愛は幸福な結婚へと至る道、というイメージでした。「愛する人は生涯ただ一人」の世界です。でも時代が下ってくると、“元カレ”“元カノ”という言葉に象徴されるように、恋愛のあり方は多様化していきます。
 家族の描写にしても、かつては「継母もの」「出生の秘密」といったものが多かったのですが、その後、血縁にとらわれない、“形はどうあれ、居場所があるところが家族”という家族観が打ち出されるようになります。ひとり親でも不幸じゃない。幸福な母子家庭や父子家庭・再婚家庭が描かれるようになるのです。仕事の描かれ方にしてもそうです。かつては、OLが主人公なら、アフター5の恋愛を中心としたものだったのですが、今では仕事を通じて女性の生き方に言及する作品が増えてきています。
 このように少女マンガは、新しい世代の価値観を鋭敏に表現してきました。それは単に読者の価値観が作品に反映されたということではありません。少女マンガは書き手と読者の年齢が近いこともあり、書き手と読者の間に新しい価値観が共有され、両者がコラボレートすることで、新鮮な作品が次々に生まれてきたのです。
 じつは少女マンガというのは、欧米にはないジャンルです。正確に言えば、50〜60年代までは欧米にもあったのですが、その後、欧米ではマンガは基本的に男性のメディアになりました。日本のマンガが欧米で新鮮に受け止められたのは、『女性がマンガを読んでもいいんだ。描いてもいいんだ!』というのも大きかったんですよ。

社会・ライフの関連記事

幕末のパンデミックを日本人はどう乗り越えたのか

2022.7.27

幕末のパンデミックを日本人はどう乗り越えたのか

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 須田 努
原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

2022.5.18

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

  • 明治大学 法学部 教授
  • 勝田 忠広
木賃アパートには、未来社会を構築するヒントがある

2022.5.11

木賃アパートには、未来社会を構築するヒントがある

  • 明治大学 理工学部 専任講師
  • 連 勇太朗
サステイナブルな社会になるために必要な「評価」とは?

2022.4.22

サステイナブルな社会になるために必要な「評価」とは?

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 源 由理子
熊本県産アサリ、産地偽装問題の一番の被害者は熊本県!?

2022.3.23

熊本県産アサリ、産地偽装問題の一番の被害者は熊本県!?

  • 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 法務研究科教授)
  • 高倉 成男

新着記事

2022.08.09

自分を活かせるライフワークを見つけよう

2022.08.05

KAMの導入によって企業と環境変化が理解できる

2022.08.01

ボルボ・カー・ジャパンのトップと語る 自動車業界の未来とブランディングの重要性

2022.07.28

自由に取り組んで、自ら学ぶ力を得よう

2022.07.27

幕末のパンデミックを日本人はどう乗り越えたのか

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2022.08.05

KAMの導入によって企業と環境変化が理解できる

3

2022.08.01

ボルボ・カー・ジャパンのトップと語る 自動車業界の未来とブランデ…

4

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

5

2021.12.15

使い捨て文化にはない豊かさがある、日本の漆器の文化

連載記事