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日本発マンガ産業への提言 ―国際比較の視点から―

藤本 由香里 藤本 由香里 明治大学 国際日本学部 教授

世界マンガ市場の半分は日本:「雑誌」が支えるマンガ文化

スペイン/付録つき『ドラえもん』
スペイン/付録つき『ドラえもん』
 2008年4月、私は明治大学に新設された国際日本学部の准教授に着任しました。現在、主な研究対象としているのは、マンガの国際比較です。海外に目を向け始めたのは、それより前の2002年頃。関西で開かれたシンポジウムで、日本のマンガがヨーロッパで爆発的なブームになっているのを知ったのがきっかけでした。しかも同じヨーロッパでもその受容のされ方が国ごとに違うこと、それはその国にもともとあったマンガ文化のあり方と深く関係することがわかって興味を持つようになったのです。ここ数年、ヨーロッパ、アジア、そしてアメリカと精力的に海外に出向き、各国のマンガ文化・マンガ事情を調査しています。面白いのは、たとえば「ドラえもん」はアジアで非常に人気があるのですが、ヨーロッパではスペインを除くとあまり受け入れられていません。「スラムダンク」もそうで、何が人気があるのかは、じつは相手国の文化によって違うのですね。

中国の雑誌キオスク「東方書報亭」(上海)
中国の雑誌キオスク「東方書報亭」(上海)
 じつは日本のマンガ市場は世界の約半分を占めています。つまり一国の市場と世界市場がほぼ等しいということです。それほどの大きな市場に成長した背景を分析すると、日本独特のマンガ文化が見えてきます。たとえば、日本人で一度もマンガを読んだことがない人は皆無といっていでしょう。また、みんなマンガは書店で売っていると思っている。でも、それは世界では当たり前ではありません。
 なかでも、日本の場合、99%が雑誌に連載されて単行本化されるというのが、どんな国にもない、一番の特色です。雑誌連載だと、読者の反響で内容が変わっていったりするんですね。つまり日本では、マンガは、読者と共に作り上げていくメディアなんです。そこには、読者と作者を繋ぐ役割を果たすマンガ編集者の存在も大きくかかわっています。また、他国では基本的に、マンガは、親が子供に買ってあげるもの、あるいは最初から大人に向けた作品として存在しています。つまりいずれにせよ、買うのは大人なんですね。でも日本では、子供が自分の小遣いで購入します。つまり、書き手は子供、とくに中高生など思春期の子供たちが読みたい作品をダイレクトに作って読者に届けているのです。しかも雑誌連載なので、「次はどうなるんだ?!」という展開で興味を引っ張っていく。
 日本にいると、作り手の側も雑誌の重要性をそこまで認識していませんが、こうした日本のマンガの独自の発展の背景には、“雑誌”という流通メディアが大きく影響していることを忘れるべきではありません。外国のマンガは1話完結がほとんどですが、日本のマンガの多くは“連載”であること、雑誌がないと新人はなかなか出てこれないことを含めて、日本のマンガ文化において雑誌は極めて重要であることを作り手も読者も再認識すべきです。雑誌は今、だんだん読まれなくなっていますが、安易にこのメディアを手放すことは、日本マンガの存在自体を掘り崩していくだろうと思います。失われてしまう前に、読者の側も作り手の側も、マンガ雑誌の魅力を再発見すべき時期なのではないでしょうか。

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