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日本発マンガ産業への提言 ―国際比較の視点から―

藤本 由香里 藤本 由香里 明治大学 国際日本学部 教授

クールジャパンに足りないもの

藤本由香里教授 近年、インターネットの普及等によりメディア状況が変わりつつあります。マンガもWeb上で読める時代になりましたが、日本のマンガにおける雑誌の重要性を鑑みれば、単にWebに移行すればいいというものではありません。雑誌の役割を担保しつつメディア状況の変化に対応する必要があります。
 そうした中で懸念されるのが「スキャンレーション」の問題です。これは、オリジナルマンガをスキャンし、セリフを翻訳し、インターネット上に違法アップロードする電子海賊版のことです。アニメーションを翻訳して字幕をつけて公開する同様の行為は「ファンサブ」と呼ばれます。最初のうちは本当にファン活動で、正式版が出ればネットから降ろす、というような良心的な時もあったのですが、最近では、とくにアメリカを中心に、組織的にデータを自動収集して勝手にサイトで公開し違法に広告で稼ぐ、という悪質な活動が広がっています。このため、アメリカでのマンガの売上は半減しました。マンガ産業の健全な発展のためにもこうした違法サイトへの対策を早急に講じる必要があります。たとえば版元自らが翻訳し世界同時配信する、というのは、違法アップロードを防ぐ有効な手段です。でも一企業では限界があります。国際的な強い抗議も必要ですし、助成金を含めた国の支援が必要だと思います。
 また日本のマンガの海外輸出自身にも問題があります。日本の版元の著作権許諾のスピードが遅いことは、どこの国に行っても指摘されます。しかも日本では、版権をとった現地の出版社が広告を出すにもイベントを打つにも、その作品のイラストを使うのにいちいち許可が必要で、許可を求めてもなかなか返事をくれない。それに対してディズニーなどでは、すぐにも商品や宣伝に使えるようにしたイラストパッケージを多数用意して、簡易な手続きですぐに利用できるようにしている。日本もそういう国際戦略を見習うべきです。
 「クールジャパン」の取り組みなどでもそうですが、日本のマンガの海外輸出は、「面白いから売れる、宣伝すれば売れる」という一方的・平面的な姿勢に終始しているように思えます。最近推し始めた「日本食」にしても同じ姿勢ですよね。でも、ちょっと考えても、文化のブランド力を高めると同時に利用しやすくする、相手国の文化や流通を立体的にとらえてそれに合った戦略を考える、海賊版や違法利用に抗議すると同時にバーターとなる条件を獲得する、逆にパートナーとなる他国の版元には宣伝のためもっと自由度を認める…など、もっと工夫できるところがたくさんあると思います。それはこのグローバル時代に、他国との間の相互理解、文化・産業の良い循環を作っていくことにつながっていくと思うのです。

※掲載内容は2014年4月時点の情報です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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