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2014.04.01

日本発マンガ産業への提言 ―国際比較の視点から―

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マンガの国際交流の推進

フランス/アングレーム国際マンガフェスティバル
フランス/アングレーム国際マンガフェスティバル
 日本のマンガが、いま、世界中で広く読まれ、人気を集めているのは事実です。その理由として「日本のマンガは面白いから売れる」という見方がありますが、先の「ドラえもん」や「スラムダンク」の例を考えても、それは単純すぎる見方です。受容される背景には、単にマンガの内容だけでなく、もともとその国にあったマンガ文化や流通条件等が複合的に影響していることを見る必要があります。
 たとえば同じヨーロッパでも、フランスではマンガは「第9の芸術」と呼ばれ、社会的な認知も高いし、広く読まれてもいますが、隣国のドイツでは、なんであれ絵で説明することは教養のないことだとする活字優位の国であるため、マンガは低位文化とされています。だからドイツには自国のマンガ文化がほとんどなかったのですが、その空白地帯で日本マンガに飛びついたのは、女性読者でした。ドイツでは女性読者が7~8割を占めています。そのように、状況は各国ごとに違うのです。あるいは、アメリカで、アジアの多くの国で、ヨーロッパでもかなりの国で、マンガはニューススタンドで売られるのがふつうで、日本のように書店で販売されることはまれでした。なかなか日本のマンガ文化が根付かなかったアメリカで日本のマンガがブレイクしたのは、それまでの常識に逆らって、組織的に書店で売るようにしたからです。
 自国の何かを他国に広めようとするためには、相手の文化も知る必要があります。しかし、マンガに関しては日本はガラパゴス、鎖国状態であると言えます。文学でも音楽でも海外文学、海外ポップスがないというのは考えられないことですが、マンガ売場にはほぼ日本のマンガしかありません。でも、作家のレベルでは、じつはお互いに深い影響を与え合っているのです。

イタリア/ルッカ・コミックス&ゲームス
イタリア/ルッカ・コミックス&ゲームス
 それを検証する一環として行ったイベントがあります。2009年に京都精華大学と共同でフランスのみならず世界を代表するマンガ家であるメビウス氏を招いて、東京では明治大学でシンポジウムを開催したのです。メビウス氏はそのきわだった画力と世界観を持ったSF作品で、世界中のアーティストに強い影響を与えました。日本でも、宮崎駿や大友克洋、松本大洋、浦沢直樹……といった作家たちが大きな影響を受けています。明治大学でのシンポジウムでは浦沢直樹氏とマンガコラムニストで学習院大学大学院教授の夏目房之介氏をお招きしてセッションを行いました。1200人収容のアカデミーホールに入りきれないほどの来場者がありましたが、このシンポジウムは日本とヨーロッパのマンガの影響関係を考える貴重な機会になったと思います。これをきっかけに、「海外マンガフェスタ」も立ち上がりましたし、少しずつ海外のマンガに注目する動きが出てきています。さらに近い将来、明治大学内に国際マンガミュージアムを立ち上げる計画もあり、今後もマンガの国際交流を積極的に推進していきたいと思っています。
 日本だけではない海外のマンガに目を向けることが逆に、日本マンガの特性はどこにあるのか、を考えることにつながると思っています。みなさんも、海外のマンガにも目を向けてみてはどうでしょう。新たな発見があると思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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