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自分のプロダクティビティを発揮する意欲をもつことが大切

社会制度を変えるのは、行政や政治ばかりの仕事ではありません。私たち自身が変わることで、制度を変えることもできます。

例えば、私たちは、昔と比べると、はるかに健康で長寿になっています。同じ65歳でも、50年前の65歳といまの65歳では、健康度がまったく違います。

ところが、いまの制度では65歳から一律に老後と固定し、支えるべき層と見なします。この、50年以上も前に作られた制度に健康な65歳以上の人たちが縛られ、まだまだ有り余る生産性を捨てるのはもったいないことです。

私たち一人ひとりがもっているこのプロダクティビティ(生産性)をフルに発揮すれば、支えられる側から支える側に回ることもできるのです。

ところが、このような議論が出ると、年金の支給開始年齢を引き上げるとか、定年の年齢を引き上げるという議論になります。しかし、一律に年齢を引き上げるのでは、いままでの制度の運用が少し変わるだけで、本質的に新しい制度の設計にはなりません。

例えば、健康度も人によって異なりますし、家族のいる人もいれば、いない人もいます。一人ひとりの状況に応じて、その人のもっている、社会に対する生産性や意欲を最大限に確保する仕組みをつくることが重要なのです。

それは言いかえれば、社会保障制度の設計を人口の数(量)ではなくて、質を考慮して行うということです。

いままでの制度では、一律に行うことが公平という発想でした。

高齢になっても働き続ける人がいる一方で、年金暮らしの人がいるのは不公平だから、定年年齢を一律に設定するとか、労働時間がまちまちなのは不公平だから全員が一律の勤務時間で働く、という発想だったのです。

だから、高齢者でも働くのであれば、若者と同じように満員電車に乗って通勤するということになります。

でも、一人ひとりの状況を顧みず、全員同じにすることが果たして公平なのか。むしろ、それによって損失を出しているのではないか、ということに私たちは気づき始めています。

例えば、働く形が柔軟で多様であれば、私たちはいくつになっても、もっと働くことができるはずなのですから。

定年制度は人権侵害、という発想の国もあります。

日本でも、働き方改革などが進行していますが、誰もが自分に適した働き方ができる仕組みを定着させることが必要ですし、私たち自身も、一律に定められた年齢で老後と扱われることを受け入れるのではなく、健康状況や能力に即した、もっと自分のプロダクティビティを発揮する意欲をもつことが大切なのだと思います。

次回は、長寿の生き方について解説します。

#1 少子高齢化による人口減少が問題なのはなぜ?
#2 日本の家系の半分は消滅する?
#3 社会保障制度は、人がつくるもの?
#4 65歳は老後じゃない?
#5 私たちは人類の大転機にいる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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