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#1 主体的なキャリア形成とは?

荒木 淳子 荒木 淳子 明治大学 政治経済学部 准教授

社会の変化に対応して、自らが自らを変化させることでキャリアを積む

近年、主体的にキャリアを形成する活動に関する関心が高まっています。

それは、入社すれば、会社から仕事や研修などの指示が与えられ、それをこなしていけば、社員は自ずと業務上の経験値が上がり、それによって会社に対する貢献度が高まり、評価や待遇の向上に繋がっていく、伝統的なキャリア形成のあり方が限界を迎えている、ということなのかもしれません。

では、そんな時代の中で、私たちはどのように働き、キャリアを形成していけば良いのか、考えてみましょう。

実は、主体的なキャリア形成という考え方はそれほど新しいものではありません。

1976年に、アメリカの心理学者のダグラス・ホールは、「プロティアン・キャリア」という考え方を提唱します。これは、ギリシャ神話に登場する、変幻自在の神、プロテウスになぞらえたもので、個人が地位や給与ではなく、心理的な成功を重視し、自己の成長や自由に価値を置いてキャリア形成することを意味します。

当時はアメリカでも、会社の中でキャリアを積む伝統的なやり方が主流でした。しかしその後1980年代になると、大規模なリストラや企業のダウンサイジングが行われ、それまでの伝統的なキャリア形成が大きくゆらぎました。企業と個人との長期的な雇用関係が弱まる中で、人びとの働き方はもはやひとつの企業の中の昇進や異動にとどまらず、多様なあり方を見せるようになりました。

そのため、会社に頼り切るのではなく、個人が自己決定をしながら自分自身でキャリアを作っていくことが提唱されたのです。

この考え方はアメリカで定着していきます。一方、日本でも、2000年代に入ると、いわゆる就職氷河期の時代となり、企業には頼れず自分でなんとかしなくてはいけない、という考え方が広まります。

個人が環境の変化に対応しながら、自ら学び、キャリアを構築していくという「キャリア自律」の考え方が日本に紹介されたのもこの頃です。しかし当時の日本では、個人が社会の変化に対応しながら主体的にキャリアを形成するといっても、では具体的にどのようにすればよいかまでは明らかではなく、自己責任にゆだねられていました。

しかし「人生100年時代」と言われ働く人の意識が変化したことや、働き方改革などの影響もあり、今、再びプロティアン・キャリアの考え方が注目されています。プロティアン・キャリアやキャリア自律のように、個人が自ら学び考えながら主体的にキャリア形成をしていくことを、ここではまとめて主体的なキャリア形成と呼びます。

すなわち、社会の様々な変化や多様化に対応し、企業が成長していくために、また、個人がより良い人生を楽しむために、主体的なキャリア形成が注目されるようになってきた、ということだと思います。

次回は、企業が模索する主体的なキャリア形成について解説します。


#1 主体的なキャリア形成とは?
#2 主体的なキャリア形成は企業にとって有効?
#3 主体的なキャリア形成のためにはなにをすれば良いの?
#4 主体的キャリア形成で幸せになれるの?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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