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#3 地方は、よそ者に排他的なんでしょう?

奥山 雅之 奥山 雅之 明治大学 政治経済学部 准教授

どこの地域にもある排他的な規範、慣習、姿勢を変えるのは危機意識

日本海に浮かぶ島根県隠岐の島の離島に海士町(あまちょう)という町があります。歴史的には、1221年に鎌倉幕府と対立した後鳥羽上皇が配流された島として知られています。

現代でも本土から船で2~3時間かかる離島であるため、豊かな漁場があり、自然を活かした酪農や農業もありながら、人口の流出が止まらず、1950年頃には約7000人あった人口が、2010年には2374人に減少し、高齢化率も40%に達しました。一時は財政再建団体に転落する危機もあったといいます。

この状況に危機意識を募らせた自治体は、この島に眠る価値を見出して商品化する取り組みを始めます。反対意見もありましたが、そのための施設や設備に巨額の予算を注ぎ込みました。すると、その中から、岩ガキやイカなど海産物によるヒット商品が生まれたのです。

さらに、こうした島の地域資源を見直すために、「よそ者」を積極的に受け入れました。つまり、企業を誘致するのではなく、若い起業家を誘致したのです。

そのための施策として、「商品開発研修生」制度を創設しました。島外からやって来た「よそ者」は、島の基幹産業である水産資源の加工・販売などの業務を経験しながら、生まれてくる「気づき」によって海士町の地域資源を活用した新たな商品を開発するのです。

その研修生の期間は月給15万円が町から支給されます。つまり、0からのスタートや、自己負担での立ち上げでは、「よそ者」にとってはリスクが大きいのですが、そのリスクを軽減する制度を創設したわけです。

こうした取り組みの中から隠岐牛などのブランドも生まれ、借金が積み重なっていた町の財政は、今日では健全化しました。すると、島外から移住してくる人が増え、いまでは島民の1割が移住者で、その多くが20代から40代の働き盛り世代だといいます。

活性化が上手くいかない地域の多くは、地域に埋め込まれた排他的な規範、慣習、姿勢を変えることができません。せっかく地域外から来てくれた人に冷たくあたったり、活動の足を引っ張ったり、その人が成功すると、その事業を乗っ取るケースもあります。

「よそ者」に町の慣習を「荒らされたくない」という思いは、多かれ少なかれどの地域にもありますが、海士町の事例を見れば、危機感がそうした思いを排除したことがわかります。

各地の首長さんには、自分たちの地域がどういった状況にあるのか、一度見つめ直すことをお勧めします。

都市生活者の中には、いま以上に自分の能力を発揮できる場があれば、地方でも行きたいという思いの人は多いでしょう。しかし、その場合、注意しなければいけないのは、まず、地元の人たちと良好な人間関係を築くことです。

そこのコミュニティで受け入れられれば、活動はしやすくなります。成功したときには、成果を自分だけのものにするのではなく、地元に還元することも大切です。

あるいは、海士町のような取り組みを行っているところは多くはありませんが、そうした地域を見つけたら、そこで地域活性化に繋がる活動にトライしてみるのも良いかもしれません。

次回は、地域活性化に成功した事例をもうひとつ解説します。

#1 都市生活者に地方創生は関係あるの?
#2 なぜ、世界では「シリコンバレーモデル」が成功しているの?
#3 地方は、よそ者に排他的なんでしょう?
#4 地方は都市より住みにくいでしょう?
#5 地方創生は都市生活者に何をもたらしてくれる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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