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実用化が近づく自動運転車に、いま必要なこと

中山 幸二 中山 幸二 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授

近年のモーターショーなどで、様々な自動車メーカーが自動運転のコンセプトカーを発表し、大きな話題になっています。現在、日本の技術は世界最先端といわれていますが、実用化のためには、技術開発だけでなく、それに合わせた法整備が重視されるようになっています。

自動運転の開発チームに法律家が加わり始めた

 一般に、自動運転の車というと、人は目的地をインプットするだけで、車が自動的に走行するものをイメージしがちですが、現在では、アメリカの運輸省道路交通安全局が2013年に発表した自律走行車の5段階のレベルが基準定義となっています。レベル0が、人が常に主制御系統の操作を行う車。レベル1が、特定の自動機能を1つ以上搭載し、各機能が単独で作動する車。例えば、自動ブレーキ、クルーズコントロールなどの機能を有した車です。レベル2が、複数の自動機能が同時に作動する車。レベル3が、すべてのコントロールを自動で行う車。ただし、人が自動運転モードを維持できない状況と判断した場合は、人の運転による手動モードへと切り換えられる機能を有しています。そしてレベル4が、完全自動運転の車です。車を安全に運転させるための、認知、判断、操作の三要素をシステムが完全に行うものです。
道路交通法(1960年)
 世界各国の自動車メーカーは、この自動運転の技術開発を数十年前から進めており、現在では、公道実験が行える段階になっています。ところが、公道を走る車には各種の法律や制度があり、それらは、「車は人が運転するもの」という前提のもとに構築されています。そこで、こうした技術革新に合わせ、法の改正が必要になってきました。国際的な道路交通条約であるウィーン条約では、2014年、自動運転モードで走行していても、即時に人間の運転に切り換えることができる限り、運転者の操作とみなすという旨の改正案が採択されました。自動運転のレベル3が国際基準として受け入れられる状況になっているといえます。

 日本でも、安倍首相が、運転者がいれば、自動運転でも制御しているのと同じに扱って良いという解釈の方針を出し、今年の10月頃から、所轄の警察署に届け出をすれば、高速道路に加えて、一般道でも実験車を走らせることができるようになっています。

 現在、このような「みなし規定」や「解釈」によってレベル3の自動運転車が公道実験を行っていますが、市販車を実現するためには、しっかりとした法整備を行うことが重要です。私のような法律家が自動運転の開発チームに入ったり、今年から、日本学術会議につくられた自動運転のフォーラムに、私を含め2人の法律家が加わるようになったことは、いよいよ自動運転車の実用化が視野に入ってきたからだといえます。

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