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自動運転を実用化するのは新しい技術と、私たちがつくる制度

田中 絵麻 田中 絵麻 明治大学 国際日本学部 准教授

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最近、自動運転に関する話題がよく聞かれるようになりました。各国の自動車メーカーなどが技術開発にしのぎを削っていると言います。しかし、なんのための自動運転なのか、国によって事情が異なり、そのための制度設計も異なってくると言います。

自動運転技術の開発は「破壊的イノベーション」

田中 絵麻 自動運転は夢の技術のように語られてきましたが、アメリカなどではもう公道試験が始まっており、実用化も近いのではないかと考えられています。

 確かに、アメリカの技術は世界でも群を抜いていると言われますが、その背景には、いわば産官学一体となった開発の推進があります。

 アメリカでは、2004年に、世界初の長距離による自動走行車のコンペティションが始まっています。主催したのはアメリカ国防省傘下の研究機関であるDARPAです。

 アメリカ南西部のモハーヴェ砂漠を舞台に行われた第1回は、約240kmの距離を完走できた車はありませんでした。

 しかし、翌年の大会で、スタンフォード大学とグーグルが組んだチームが優勝します。グーグルは、後にWaymoという会社を立ち上げ、自動運転の技術開発に力を注ぐようになります。

 DARPAのコンペティションも、2007年には空軍基地内に市街地を模したコースを作り、そこで行われました。公道を走る自動走行車の実用化を見据えた開発が本格化したのがこの時期だと考えます。

 現在では、アメリカの一部の州では自動走行車の公道試験を許可しており、Waymoはそこで様々なデータを集めています。

 例えば、車に設置した多くのセンサーによる走行中の画像データを高速で解析し、周囲にどんな車がいるのか、障害物があるのか、また、人の存在などを把握することはもちろん、交通標識や信号の色も認識し、判断させているようです。

 いまでは、完全自動運転技術の開発では、Waymoが世界各国の研究チームの中で先行していると言われます。

 DARPAから始まったドライバーがいない無人運転を目指す自動運転技術開発は、企業経営の世界的研究者であるクレイトン・クリステンセンのいう「破壊的なイノベーション」にも該当すると思います。

 その背景には、1950年代後半、人工衛星の開発で当時のソ連に後れをとったアメリカが、他国の技術開発に後れをとることがないようにするための研究機関として、DARPAを設立したという経緯があります。

 これは、日本のイノベーションのスタイルとは異なりますが、ある意味、社会の文化的な違いで、どちらが良いとか優れているという話ではありません。

 例えば、いまの自動車産業も、それ以前の馬車などから見れば破壊的なイノベーションですが、現在では、特に小型車などでは日本やヨーロッパの企業が席巻しています。技術開発の成功がそのまま優位性として続くわけではないのです。

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