自動運転に対するアメリカと日本のアプローチ
破壊的イノベーションは新しい技術開発だけでなしえるものではなく、それを社会に浸透させる制度設計が必要です。
例えば、自動運転の技術がどんなに進んでも、公道試験がなければ、実用化は進展しません。
アメリカ社会には、それを容認する土壌があります。それは、産官学が一体となり、技術の発展に応じた対応を行う制度があるからです。
例えば、自動運転にはその自動化度合いに応じて5つのレベルに分けられています。
レベル2までは運転手がいる前提で、機械やシステムが運転をアシストするレベルです。レベル3は高速道路での自動運転が可能で、レベル4以上は完全自動運転が可能です。
この規定をつくったのはSAEという自動車業界の民間の団体です。国は、この規定を基にガイドラインの整備などを行っているのです。
例えば、2016年に、レベル3の自動運転の車が公道試験で死亡事故を起こしました。すると、徹底的な調査が行われ、運転手のヒューマンエラーが原因の一つであることが突き止められました。
レベル3の自動運転では、車は異常事態を認識すると警告を発し、人が運転することを求めます。しかし、このときの運転手はその警告を無視し、ハンドルを握らないまま走行を続けました。
加えて、アメリカの運輸省の道路交通安全局は、車の自動回路への過度の依存があるときのセーフガードの欠如を指摘し、開発チームに対しては、そうした状況に対応する仕組みの開発を勧告しました。
このように、民間からのボトムアップと、それを基に行政側が標準化やガイドラインを策定したり、問題が起きたときには民間に対して勧告などの指示を出すトップダウンの両面が上手くサイクルする仕組みがあることが重要だと考えます。
それによって技術と制度が同時に形成・発展していることが、アメリカが破壊的イノベーションを生み出しやすく、普及させやすい基盤になっている一つの要因ではないかと感じています。
現在、日本で想定されている自動運転の活用方法の一つは、バスなどの公共交通となっています。高齢化、過疎化が進む地域での有効な交通手段にもなりうるため、安全性と利便性が求められます。
高齢化が急激に進み、高齢者の死亡事故の増加や、そのために高齢者の免許証の自主返納を奨励する日本社会では、自動運転技術を高齢者の車や公共交通に活かすことが重要になっています。
新しい技術の発展は、社会全体の需要や要望によってつくられる制度によって、その方向性も異なってくると考えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。