
世界から紛争はなくならず、住む場所を追われる人が絶えません。ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ紛争は注目されていますが、ラテンアメリカからの移民もいまだに続いている状況です。ラテンアメリカでは、演劇をはじめとする芸術は軍事政権下で弾圧されるなど、政治と密接な関わりがあります。ラテンアメリカにどのような歴史があったのか、芸術がどんな弾圧を受けてきたのかなどをお伝えします。
移民問題を自分にも関係のあることと捉えたい
日本に住んでいると、移民問題は遠い国の話だと感じるかもしれません。しかし、現実にはコンビニや飲食店、医療・介護、製造業、建設現場などに外国人の労働者が数多くかかわっており、日本の生活を支えるうえで欠かせない存在です。移民問題は決して他人事ではなく、とても身近な問題なのです。
外国人が増えると仕事をとられる、犯罪が増えるなどの先入観があると、お互いなかなか歩み寄れないでしょう。私たちアジア人がヨーロッパ文化圏に行くと、同様の先入観を抱いた現地の人に出会うことが少なくありません。自分だけ無視されたり、東洋人だと馬鹿にされたりすることもあります。立場が逆になれば、いつでも当事者になりえます。
私は、スペイン語圏やカタルーニャ語圏の演劇などを研究しているため、アルゼンチンやチリ、ペルー、ウルグアイ、キューバといったラテンアメリカの国々に関心を寄せていますが、ラテンアメリカには海外へ移民する人が多くいます。例えば、スペイン語圏のアルゼンチンやチリからは言葉が通じやすいスペインやポルトガルに行ったり、ブラジルやペルーなどの日系人が日本に来たり。コロンビアのような政情不安の国では、紛争地域から強制的に他の地域へ移住させられる国内移民もあり、いろいろなパターンがあります。
ラテンアメリカの国々が多くの移民を輩出する背景には、かつて植民地であったという歴史も関係しています。これら国々は長い抑圧を経て、宗主国(主にスペイン・ポルトガル)から独立しました。ただ、まだ真の意味で独立を果たしたとはいえず、社会構造も以前とあまり変わっていません。政情が不安定な国や独裁政権の国もあり、それが政治や経済にも影響を及ぼしています。特権階級以外の人は生活が困難となり、深刻な貧困問題や治安の悪さから故郷を離れざるをえない場合もあるのです。これらは、ある意味で亡命と解釈できます。こうした人々に対して、最低限の衣食住を提供するなど、いかに人間の尊厳を守るかが課題なのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。