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TPPの施行が近づき、日本の農業は大丈夫なのかと懸念されていますが、昨年6月に、いままで日本になかった新たな制度が発足しました。それが「地理的表示保護制度」です。一般にはあまり知られていない制度ですが、日本の農業の将来を大きく左右する制度となるかもしれません。一体どのような制度なのでしょう。

ヨーロッパの農産品を守り育んできた制度

高倉 成男 地理的表示保護制度とは、一言で言えば、農産品の地名と品質を合わせて保護する制度です。というと、「松阪牛」や「宇治茶」のように産地名と商品名からなる「地域団体商標」を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、この地域団体商標は登録商品に品質の基準はなく、当該地域で生産されていれば登録商標を表示できます。それに対して、地理的表示(Geographical Indications 略称GI)は、産地とともに品質の基準を定めて登録し、その品質基準の管理団体を国がチェックし、保証する仕組みになっています。例えば、すでに登録されている商品に茨城県稲敷市江戸崎周辺で生産されている「江戸崎かぼちゃ」があります。通常のかぼちゃは、収穫後、貯蔵庫で追熟させますが、江戸崎かぼちゃは畑に40日間置いて完熟させ、太陽光を浴びて甘さも栄養価も高くなったものを収獲するという大きな特徴があります。この生産方法を守り、規定の品質に達していなければ、江戸崎地域で生産されたかぼちゃであっても、地理的表示の認証マーク(GIマーク)は表示できないのです。

GIマーク この地理的表示保護制度は、もともとヨーロッパで発達した制度です。例えば、フランスのシャブリ地区で作られている「シャブリ・ワイン」は、ミネラル分が豊富なシャブリの土壌において、どういう品質のブドウを用い、苗はいつ頃に植えて、葉っぱはどのように選定し、ブドウはどういう温度条件で発酵するかなど、生産方法を自分たちでひじょうに厳密に決め、それを国がチェックして規定通りに作られた白ワインだけを、シャブリと名乗って良いと認定する制度になっています。消費者は、「シャブリ・ワイン」と表示されたワインを安心して購入できるというわけです。

 日本が導入した地理的表示保護制度も、こうしたヨーロッパの制度に準じています。産地と品質を国が保証するので消費者の安心感は大きくなりますし、また、もし模倣品が発覚した場合、地域団体商標の登録商品では、商標権者が自ら差し止めや損害賠償を主張しなければなりませんが、地理的表示の登録商品では、国が排除命令を出すようになります。地方の中小の生産団体などにとっては、模倣品への対応の負担が大きく軽減されるでしょう。

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