日本の農産品を世界に売り込むための強い味方
地理的表示保護制度のメリットは、農産品に対する信頼と安心だけではありません。TPPが施行されると海外から安い農産品が流入し、日本の農業は大打撃を受けるといわれていますが、世界から見たとき、日本の食には信頼と魅力があります。この信頼と魅力をブランドとして守ることで、日本の農産品を世界に売り込んでいく後押しになると考えています。
いま、地理的表示保護制度は、ヨーロッバ各国をはじめ、韓国、中国、アセアン諸国も導入し始めています。すべての国の制度がまったく同じというわけではありませんが、ヨーロッパの制度が国際標準のベースになっています。この制度を導入している国々に日本の商品を登録することで、模倣品から守ってもらえるようになるのです。例えば、近頃、外国のレストランで「オーストラリア産・神戸ビーフ」なるものを見かけるようになりました。いままでは取り締まるのが難しい状況でしたが、今後は、各国に「神戸ビーフ」の地理的表示保護の登録をしておけば、その国が取り締まりを行ってくれることになります。まさにブランド品を守るのと同じです。
一方で、一部の国では「神戸ビーフ」が霜降り肉を意味する一般名称として使われ始めていて、これが定着してしまうと、「神戸ビーフ」という名称はみんなの共有財産ということになり、日本の「神戸ビーフ」が他者には名称を使わせない排他性を主張しても、受け入れられなくなってしまう恐れがあります。各国との間で一品ずつ登録申請していては時間がかかるので、二ヵ国間で登録商品のリスト交換をしておくことが迅速な対応につながるでしょう。
この「オーストラリア産・神戸ビーフ」は、外国で日本食に人気があり、それにあやかろうとする一例でもあります。TPPが施行されると日本の農業は打撃を受けると考えるのではなく、本物の日本産品を売り込むチャンスであり、地理的表示保護はそれをしっかりサポートする強い味方になるのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。