
違法収集証拠排除法則ということばを聞いたことがあるでしょうか。要は、警察などの捜査機関が違法な捜査によって得た証拠を裁判で採用しない、ということです。一見、当然なことにようにも思えますが、それによって有罪認定ができない、という事態も起こるかもしれないのです。
捜査に対する規制の難しさ
新しく生み出される技術等を使った犯罪の方法に対応するためには、新しい捜査の方法が利用されることも求められます。しかし、それらが、何らかの個人の権利・利益を侵害・制約するということを考えると、やはり、捜査に対する規制が求められます。
たしかに、捜査では、例えば、本人の同意を得ずに、住居や所持品等を捜索して、証拠物を差し押さえるようなことまで許されています。そのような、個人の同意を得ずにその権利・利益を侵害する捜査(強制捜査)は、法律による定めがなければ行うことはできません(強制処分法定主義)。さらに、実際にそのような方法を使う場合には、裁判所に令状を出してもらうことが原則です(令状主義)。
令状は、捜査機関が求めれば自動的に出るというものではありません。例えば、警察が家屋に対する捜索をする場合には、警察の令状請求に対して、裁判所が審査をして、その捜索をするための要件が満たされていると判断した場合に令状を出すのです。
このように、強制捜査には、立法と司法の二重の規制がかけられていると言えます。また、そもそも、強制捜査を用いずに済むのであれば、強制捜査以外の方法(任意捜査)を用いることが原則ともなっています(任意捜査の原則)。つまり、捜査権限の濫用がないように、慎重な規制が設けられているわけです。
2017年に、最高裁は、その事件で用いられたGPS捜査は違法であるとの判断を下しました。
この事件の捜査のとき、警察は、GPS捜査という新しい方法は強制処分ではないと捉え、令状を得ることなく、これを実施しました。しかし、最高裁は、GPS捜査はその性質上、強制処分に当たるという判断を示し、令状によらずにこれを実施したことは違法であるとしたのです。
さらに、GPS捜査は、現在、法律で規定されているどの強制処分にも当てはまらず、これを用いるためには、立法による整備がされなければならないことも示しました。
このように、捜査は自由に行えるわけではありませんし、特に、新しい技術等を使った捜査が問題となった場合、それが適法であるかを判断することも簡単なことではありません。また、新しい捜査の方法以外でさえ、警察が適法に実施したと考えていたとしても、違法であるとされる場合も、もちろんあるのです。
さらに、違法な捜査によって得られた証拠が、裁判で使えないという場合すらあります。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。