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捜査の違法と違法収集証拠排除法則

 違法収集証拠排除法則というのは、もともとアメリカにあった考え方です。捜査機関が違法な捜査をした場合に、それによって得た証拠は裁判において採用しないというルールです。その根拠は複数ありますが、そのうちの一つとして、違法な捜査をしても証拠として使えないのであれば、捜査機関は違法な捜査をしなくなるだろうという期待がそこにあると考えられてきました。

 つまり、捜査だからといってなんでもやって良いわけではないのはもちろんのこと、こういった方法によっても、違法な捜査がなされないようになっていると考えることもできます。

 このように聞くと、それは当然のことと思う人も多いと思います。実際、日本にも違法収集証拠排除法則は取り入れられて、地裁や高裁では、捜査機関による捜査の違法性を指摘し、それによって得た証拠を採用しないという判断を、比較的早くから行っていました。

 しかし、最高裁が、違法収集証拠排除法則の適用を理論上認めたのは、昭和53年(1978年)のことであり、さらに、実際に、最高裁が、これを適用して証拠を排除するという判断をしたのは、平成15年(2003年)になってからのことで、下級審に比べるとかなり遅い時期の判断でした。

 証拠とは、刑事裁判における事実認定の重要な資料ですから、それが採用されるか、排除されるかで、事実認定が変わってしまうこともあります。極端な例ですが、排除された証拠が、有罪を示す唯一の証拠であった場合には、有罪という判断をすることはできなくなるでしょう。

 捜査機関が違法な捜査をすることは許されません。また、それが明らかになった以上、裁判所が、その違法捜査によって得られた証拠に基づいて事実認定するということも許されないでしょう。

 もしそれが許されれば、公正で中立な立場から判断を下す裁判所が、違法行為に加担したようなことにもなるからです。それでは、裁判所に対する国民の信頼は失われてしまうでしょう。

 一方、捜査機関による些細な手続の誤りがあったというだけで証拠が排除されれば、有罪となるはずの多くの者を、処罰できずに取り逃してしまうことにもなりかねません。

 例えば、警察官が、犯罪を捜査してちゃんと証拠を集めなければならないという使命感が強いあまりに、あるいは、刻々と変わる捜査現場の状況で判断を誤ってしまい、軽微な違法をしてしまうということもあるかもしれません。

 それを裁判所が杓子定規に当てはめ、軽微な違法であっても証拠は排除しなければならないということになると、それも国民の信頼を失うことになるでしょう。

 実は、この違法収集証拠排除法則を生んだアメリカでも、「なぜ、警察官がヘマをしたからといって、犯人が無罪放免になるのか」と言って、この法則を批判した裁判官もいるのです。

 ですから、最高裁は、違法な捜査によって得られた証拠が排除される場合があるという考え方を認めつつも、証拠を排除するほどの場合にあたるのは、その違法が重大であり、証拠を排除することが相当であると言える場合である、という考え方も同時に示したわけです。

 このことは、違法収集証拠排除法則を適用して証拠を排除するという判断の難しさを示しています。

 さて、皆さんは、この法則をどのように考えますか。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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