明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

演劇的に生きよう ―SNSに閉じこもってしまうなんてもったいない―

井上 優 井上 優 明治大学 文学部 教授

社会は巨大な劇場である

井上優 准教授 人間は、生きている限り、言語や行為を通じて自分の思いを発信し、それを誰かが受信し、解釈し、そして改めて発信することという連鎖を繰り返していて、その連鎖が社会を形成しているとも言えます。それは演者と観客の創り出す「舞台」という空間と、共通するところが多いと思いませんか。俳優の舞台上での行為が今の連鎖をなぞるのは言うまでもないですが、劇場という空間の中で演者と観客との間でも同じような〈交流〉があるのです。
私の研究テーマは、近代以降、シェイクスピアの上演がさまざまな社会の中でどのように展開してきたかを探るというものです。シェイクスピアの劇作品は、もちろん読み物としてみると作品として固定され、変化がないように見えますが、いざ舞台にかけるとなると、社会や環境が異なると、演じ方、表現の仕方が変わっていくことが避けられません。
私は、そのように、いわば、社会という巨大な舞台でその中の「劇中劇」ともいうべきシェイクスピアの舞台が、どのように変化してきたのかを分析しています。その作業を通じて、地域性や時代性があぶり出せるのです。
特に「演出家の時代」とも言われる20世紀には、さまざまな演出家によって多様な演出が行われるようになります。シェイクスピアの世界も大きく急速に広がってきました。その背景には、もちろん、音響や照明などの舞台機構の発展があったことは確かですが、一方では、固定されたテクストにさまざまな解釈をほどこし再構成することの面白さを社会が発見したからでもあるのです。その一連の過程には、演出という作業と社会の変容の、絶え間のない連動が見いだせます。
シェイクスピア公演の変遷を追う視線を持つということは、舞台を取り巻く社会、社会と個の関係性などを捉える可能性を持つということでもあるわけです。演劇を観るということを通じて、目の前の舞台以外のいろいろなものが見えてくるわけです。

社会・ライフの関連記事

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.3.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

2024.3.7

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

2024.2.29

LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

2024.2.22

地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀
COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

2024.2.15

COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事