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虐待する心理、伝達される負の連鎖 ―トラウマ、PTSDへの心理的援助法―

高良 聖 高良 聖 明治大学 文学部 教授

虐待の「世代間伝達」とトラウマ

高良聖教授 臨床心理士として大学病院精神神経科に勤務した経験と、現在、精神科病院とクリニックにおいて、心の病を有する患者さんに心理療法を行っている臨床経験から、子供を虐待する母親の臨床について注目している。子供を虐待する母親に対しては、初回から虐待そのものを訴えて来院することは稀なので、当初は多くの患者さんの中の一人という出会いだったが、母親の心理療法を進めていくうちに、加害者と呼ばれている母親が実は過去に虐待を受けていた被害者であったことが明らかになってきた。一般に、精神科医療領域では、心理療法としての個人療法がある。患者さんと一対一で向き合いカウンセリングしていくものだ。ある摂食障害を呈した母親と面談していたときのことである。カウンセリングを続けていく中で、過去に虐待を受けていた経験が明らかになり、さらに自らも子供を虐待しているという隠された事実が判明した。歴史は繰り返すということだ。すなわち、虐待の「世代間伝達」であり、その負の連鎖は、時として重大な犯罪を引き起こす事態を生んでいる。
ここで問題にしたいのが「トラウマ」である。周知のように、トラウマとは心的外傷のことである。直接的間接的な身体的、精神的衝撃を受けたことで、長期間にわたってそれにとらわれてしまう状態であり、特定の症状を呈し、著しい苦痛を伴えば、PTSD(心的外傷後ストレス性障害)と診断される。ここで留意したいのは、トラウマとは特定の人のみが有する特別なものではないということだ。人間であれば、誰もが「トラウマ的」な体験を持っており、多くの人は通常はその記憶に蓋をして、もしくは無かったこととして生きている。しかし、トラウマを受けた者の中には、あるとき何かのタイミングで何らかの適応障害を引き起こすことがある。たとえば、身体反応として体の不調を訴える、対人恐怖症状や不安様パニック発作が出る、あるいはキレる、周囲の空気や他人の気持ちが読めない等々、適応障害は様々な形となって現れる。だがある意味、そうした不適応症状と呼ばれる状態は、私に言わせれば彼らにとって生きるために必要な、止むに止まれぬ適応反応なのだ。

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