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虐待する心理、伝達される負の連鎖 ―トラウマ、PTSDへの心理的援助法―

高良 聖 高良 聖 明治大学 文学部 教授(退任)

「ま、いいか…」の精神で生きる

 虐待を受けた人がその体験を安心して語ることができれば、それだけで癒されることは決して少なくない。癒されることで、その本人が虐待をしなくなる可能性はあるが、問題なのは、虐待は、それを受けた側に重大な影響を及ぼすということである。それが冒頭で述べた虐待の「世代間伝達」である。私たちは、「世代間伝達」という負の連鎖を断ち切ることを真剣に考えねばならない時期にきている。未だ有効な手段は見いだせないが、まずは被虐待児である子供たちに目を向け、その声に耳を傾けることから始めたい。子供たちの出しているサインに気付き、彼らが抱えている心の闇を小さくする手だてを講じること、それが負の連鎖を断ち切るための第一歩と思われる。
私が臨床心理士として、長年にわたって人間の心の闇の領域を見てきた。現在もそれは続いている。人間には光が存在しているが、そこには同時に影も生まれる。どちらが本当の自分なのかは別問題として、私たちは影があるからこそ光が意味を放つのだと思う。だから影を否定する必要はない。光ばかりに目を奪われないで、時には自分の影の部分も大切にするべきなのだ。また、効率優先、成果・成績向上といった光よりも、無駄、道草、じゃれ事といった光の当たらない部分が実は人を元気にさせるのだと思う。こうしたことを実践するために、「ま、いいか…」という心の持ち方を提案したい。そこには、悩みやコンプレックスさえ茶化してしまう「playfulness」の精神がベースにある。昨今聞かれる「うつ病」の予防にも有効だろう。「ま、いいか…」は、「楽になる、楽に生きる」ために自分が自分に送る処方箋的メッセージなのである。

明治大学心理臨床センター

高良聖教授 明治大学心理臨床センターは、一般の方々の心の健康に関する悩みや相談をお受けする機関です。子どもから大人の方まで、広く相談をお受けしています。また、学校教員や児童福祉施設職員を対象としたグループコンサルテーションも行っています。詳しくは以下へアクセスください。
http://www.meiji.ac.jp/ccp/

※掲載内容は2014年9月時点の情報です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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