
2022年、岸田政権は国民の資産を「貯蓄から投資へ」シフトさせようと、「資産所得倍増プラン」を発表しました。しかし現状、日本は投資になじみのない人が大多数です。その一因は、何のために投資をするべきかがわからず、投資をしている自分の将来像を思い描けないことにあると考えられます。この現状を改善するにはどうするべきか。初心者はどのように投資に関わっていくべきなのか。そもそもなぜ、資産所得を倍増させる必要があるのか。日米の事情を比較しながら解説します。
日本とは違い、生活に根づいているアメリカの投資事情
高齢化に伴い、老後の資産形成はますます重要な課題となってきています。しかし家計の金融資産は、2000年からの約20年間で、イギリスが2.3倍、アメリカが3.4倍も伸ばしているのに対し、日本は1.4倍の増加にとどまっています。資産を増やすのに勤労所得だけでは難しいため、欧米諸国では自身が働いて賃金を得る一方で投資を行い、両輪で所得を増やしています。日本は勤労所得に偏重しているので、一輪車のような不安定な状態にあります。
日本の歳出に重くのしかかっているのが年金と医療保険です。高齢化が進み、これらが増えていくのは目に見えています。懸命に働いていれば、老後の資産形成について考えなくて済んだのは昔の話。この先、国や企業に「おんぶにだっこ」では立ちゆかないでしょう。アメリカは1980年代から、公的年金がもうもたないから自助努力をするよう呼びかけてきました。アメリカでさえ「公的年金」「企業年金」に「自助努力」を加えた3本足の椅子で支えようとしているのに、高齢化率で世界一の日本が「自助努力」のない2本足なのは大変なことです。すでに切羽詰まっているのにもかかわらず、なかなかその危機感は共有されていません。
個人の金融資産を比べると、アメリカは現預金が10数%しかなく、その他は投資商品や保険・年金などであるのに対し、日本は現預金が50%以上。普通預金の金利0.001%が今後も続くとすれば、元本を2倍にするのに72,000年かかります。この利回りが3%だと24年、6%ですと12年で達成でき、働き始めてから引退するまでの間で十分に倍増できます。投資においてこの数値は、非現実的ではありません。
アメリカ人に投資が根づいている背景には、「金融の健全な状態」を示す「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」という考え方が浸透していることがあります。FWBは、2008年のリーマン・ショックの反省でできた消費者金融保護局が、大掛かりな調査をして定義づけたものです。「日々の金融行動が自分でコントロールできる状態」、「金融面のショックが起きたとしても乗り越えられる備えがある状態」、「金銭的な制約に縛られず、人生を謳歌するための選択肢がある状態」、「金融のゴールに向かっている感覚がある状態」。この4つがアメリカの考えるFWBです。
「給料が低いから投資をしない」「お金持ちではないから投資をしない」ではなく、FWBの定義のもと自分なりに自身の金融状態を理解し、それが保たれているから投資をする。もしくはそこをめざすために投資をする。そんな共通認識がアメリカ人にはあるわけです。また、金融ショック自体はどうしても避けられないものだという認識が広がったことで、「ゼロコロナからwithコロナ」に意識が変わったように、投資に関しても「ゼロリスクからwithリスク」に変わったように思います。あんな思いをするのはもう嫌だから、「投資をやめよう」ではなく、「少しでも痛みを和らげるようなことをしておこう」、そんな意識がアメリカ人に根づいているのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。