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2025.06.19

工学×医学で“本当に使いたいと思える”デバイスを開発する

工学×医学で“本当に使いたいと思える”デバイスを開発する
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高齢化が進む日本において、医療と工学が融合した新たな支援技術が生まれています。しかし、現場が求めているのは「かっこいいロボット」ではなく、「人々が本当に使いたいと思えるモノ」。介護・看護の分野と連携して腰痛予防デバイスや歩行支援デバイスを開発する研究者が、工学と医学をかけ合わせた技術の未来を語ります。

超高齢社会で必要とされる医工学とは

伊丹 琢 近年、世界的に高齢化が進む中、日本は2010年以降「超高齢社会」に突入しました。超高齢社会とは、65歳以上の人口が全人口の21%を超える社会を指します。2024年の日本の高齢化率は29.3%に達しており、2060年には約40%に達すると予測されています。

 高齢化が進むことで、人々の身体機能の低下が大きな社会課題となります。厚生労働省の報告によると、50歳を過ぎると運動器疾患の発症率が急増するとされています。運動器とは、骨や筋肉、関節、神経など身体の運動に関わる器官の総称です。加齢とともに筋力が低下し、歩行時に足腰を痛めやすくなったり、転倒による骨折のリスクが高まったりします。

 一度骨折して入院すると、長期間の安静により「廃用症候群」と呼ばれる状態に陥ることもあります。これは、寝たきりが続くことで筋力が著しく低下し、心理面でも負の影響を及ぼし、退院後も元の生活に戻れなくなるケースが多いことを指します。そのため、医療現場では、手術後できるだけ早くリハビリを開始し、廃用症候群を防ぐ取り組みが進められています。

 また、高齢化の進行により、介護を必要とする人の数も増加しています。2022年度の時点で、要介護認定を受けている人は約690万人に達しており、今後も増加が見込まれています。一方、介護を担う人材は不足しており、2025年度には約245万人の介護人材が必要となり、今後年間6万人程度の人材確保が求められている状況です。この人手不足により、介護士や看護師の負担が増し、中でも腰痛の発症が深刻な問題となっています。

 厚生労働省の調査によると、労働者が4日以上休業する原因のうち、腰痛が約6割を占めるとされています。特に看護師や介護士の間で発生する腰痛は「職業性腰痛」とも呼ばれ、業界全体の大きな課題となっています。さらに、近年では高齢者が高齢者を介護する「老々介護」も増加しており、家庭内においても腰痛は切実な問題となっています。

 このような状況を改善するために、近年では世界中で支援ロボットや装着型パワーアシストロボットが開発されています。パワーアシストロボットとは、人間の力をサポートするためのロボティクス技術の一つです。日常生活や産業分野で、足や腕を上げる、物を持ち上げる、作業するときなどに、人間の能力を強化する役割を果たし、例えば、腕や手、足に装着するタイプがあります。

 そうしたロボットの多くは、装着者の「動かそうとする意志」をセンサ(タッチセンサや速度を計測するセンサ、筋肉に流れる微弱な電気信号を読み取るセンサなど様々あります)で読み取り、それに応じてモータが作動し、膝や腕の動きを補助する仕組みを採用しています。

 しかし、私たちの研究では、ロボットが人間の動きを完全に代替するのではなく、人の力を補助することを重視しています。例えば、ロボットがすべての動作をアシストしてしまうと、利用者の筋力が低下し、結果として運動機能が衰えてしまいます。これでは生活の質(QOL)の低下につながるため、適度な負荷を残しながら支援することが重要だと考えています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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