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2025.06.19

工学×医学で“本当に使いたいと思える”デバイスを開発する

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介護・看護現場の腰痛を予防するスマートデバイス

 もともと、私がロボットの研究を始めたきっかけは、「パワーアシストロボットのようなかっこいいロボットを開発して、困っている人を助けたい」という思いでした。そのために一生懸命勉強をし、いろいろなアイデアを出し試行錯誤を繰り返す学生生活を送っていました。

 しかし、ある日、病院関係者や実際の身体障害者の方々と話す機会があり、こんなロボットを考えているがどう思うかを尋ねたところ、「それは何の疾病患者を想定したロボットなのか」「どんな症状でどの程度の痛みがある人か」「そのロボットで具体的に何をして、装着者にどんなメリットがあるのか」などを逆に聞かれ、とても困惑してしまいました。

 人を支援するということは簡単なことではありません。口では簡単に言うことができますが、自分が開発したロボットが本当に装着者のためになることができるのか。自分の研究の方向性を見直す必要があると感じました。

 現在、私たちは人間看護学部や病院、介護施設などと連携し、腰痛に悩む看護師や介護士を対象にした腰痛予防のためのスマートデバイスを開発しています。

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介護・看護現場の腰痛を予防するスマートデバイス

 一般的に腰痛予防のデバイスと聞くと、力を入れるときにアシストしてくれる大型の装着型ロボットを想像するかもしれません。しかし、実際の看護師や介護士の方々に意見を聞くと、「大がかりな装置を装着して仕事をするのは難しい」という声が多くありました。

 そこで私たちが開発したのが、胸ポケットに入るくらいの小さいデバイスです。このデバイスは着用者の姿勢を常時モニタリングし、腰に負担がかかる姿勢(具体的には過度な前傾や捻り等)になった際に、連動しているスマートフォンが警告音を鳴らします。ロボットのアシストによって背骨を伸ばすのではなく、自分で負担がかかる姿勢に気づいてもらうというコンセプトです。

 さらに、一日の中でどの時間帯に負担のかかる姿勢が多かったかという情報も可視化できるので、日々の仕事での姿勢改善にフィードバックできるようになっています。これにより、使用者自身が負担のかかる姿勢を取らないよう気をつけることができ、結果的に腰痛の改善・予防につながることが期待できます。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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