
2022.06.28
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ここ数年でAIが急速に進化しています。例えば、「アルファ碁」やその進化版「アルファ・ゼロ」の圧倒的な強さにその一端が表れています。それに連れて様々な分野でAIの導入が進んでおり、世界では、法曹界への導入も、加速度的に進んでいます。ところが、日本の法曹界ではAIの導入がなかなか進まないのです。
AI(人工知能)の開発は古くから始まっています。1980年代には、ロジック・プログラミングに基づいた開発が中心でした。
これは、人が問題を解くときの論理やコツをルール化してコンピュータに入力し、解答の過程を自動化しようというものです。
論理やコツをルール化するためには、その分野の専門家の作業が大量に必要です。当時、それはエクスパート・システムなどと呼ばれました。それによって専門家の論理や知恵を自動的に活用できると期待されたのです。
特に期待されたのが、法律の世界や医療の診断においてです。例えば、病気を診断するのは、「この症状なら、この病気かあの病気だ」というように、医師の知識などをルール化すれば可能になるわけです。
また、法律の世界の法規範は、「法律要件があれば法律効果が与えられる」という、明確な論理構造で法的推論をします。たとえば、民法709条の損害賠償の規定は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は」(法律要件)、「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(法律効果)となっています。
そこで、民法などの法律や判例をこのような論理ルール化して、コンピュータに入力すれば、民事訴訟などにおいて、自動判決ができると考えられたのです。
しかし、そのためには、民法の条文や判例を手作業でルール化するという膨大な作業が必要でした。また、必要な自然言語処理もなかなか進捗しませんでした。
一方で、コンピュータの世界では、2000年代に入り、機械学習や深層学習というアプローチが大きく進展してきました。特に、人の脳の仕組みを模したニューラル・ネットワーク上で効率的に学習するためのバックプロパゲーションというアルゴリズムが1980年代末に開発されたことが大きなきっかけとなりました。コンピュータの計算処理能力の大幅な向上のおかげで2000年代には実用化が進んだわけです。
それは、脳細胞と脳細胞の間のシナプス結合を新たに作ったり、結合の強弱を調整したりすることによって、脳がものを考えたり学習したりするのと同じように、コンピュータが、問題と正解を対応づけるために、脳細胞に相当する多層をなすノード間の繋がりやその強弱を調整するアルゴリズムです。
コンピュータが例題に対する解答の候補を出し、本当の正解に照らして、ノード間のつながりや強弱を調整して、正解により近い解答を出すようにします。これが「学習」で、例題と正解の多数のセットを学習して行けばだんだん賢くなります。ノードの層が何層にも重なっているので、これを深層学習というわけです。莫大なデータと厖大な計算量が必要です。
90年代末以降、コンピュータ自体の性能が大きく向上したことで、こうした学習法がより効果的になり、現在では、ニューラル・ネットワークによる深層学習がAI開発の中心的な方法になっています。このように、深層学習ではルール化や言語化などが不要なので、顔の識別などの画像認識ができるのです。