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使い心地の良い道具は、道具ではなくなる

明治大学 総合数理学部 准教授 渡邊 恵太

近年、私たちの身のまわりにはデジタル機器がどんどん増えています。それにともなって様々なことが自動化されるようになり、生活の利便性が増しています。その一方で、そんな社会に居心地の悪さを感じている人も増えています。その原因はどこにあり、改善する方法はあるのか。その研究のひとつが本学で進められています。

直接持つものではないカーソルにも自己帰属感は生まれる

渡邊 恵太 皆さんは、「自己帰属感」という言葉をご存じでしょうか。もともとは、認知科学や神経心理学などで、自己感覚の研究(自分が自分であるという感覚はどのように生まれるのか)において使用されるキーワードです。

 自分が自分であるという感覚、自分の身体が自分のものであるという感覚はどこからきているのか。すなわち、自分の手は他人の手ではなく、なぜ自分の手であると思うのか、ということを解明するための言葉です。

 例えば、自分の手足は自分の思い通りに動くから、自分の手足だとも言えます。実際、統合失調症や何らかの原因で、自分の手足や自分の行為が自分の手足や自分の行為だとは思えない人もいると言います。

 では、手に持った道具はどうでしょう。テニスのトップブレーヤーにとって、ラケットは身体の延長だと言います。思い通りにボールを捉えて打つことができるラケットは、まさに、自分の身体の一部なのでしょう。このとき、プレーヤーはラケットに自己帰属感をもっているということになります。

 この場合、重要なのは持つということでしょうか。持つことで、文字通り自分の身体の延長になり、それによって自己帰属感は生まれるのだとすれば、例えば、パソコンのカーソルのように、物理的に持つのではなく、マウスを介して操作するものに対しては自己帰属感は生まれないということになります。

 そこで、私たちは、ダミーカーソル実験というものを行いました。モニター上に、色も形も同じたくさんのカーソルを自動でそれぞれ自由に動き回らせます。その中にひとつだけ、マウスと連動するカーソルがあります。人は、自分が操作するマウスのカーソルがわかるのか、という実験です。

 すると、自分が操作するカーソルを判別できることがわかったのです。しかも、そのモニターを横から見ている人には、どれが操作されているカーソルかわかりませんでした。

 つまり、カーソルという視覚情報だけのものに対しても、他の誰でもなく自分であるという認識が生まれることがわかったのです。

 すなわち、自己帰属感が生じる点において重要なのは、自分の身体であるとか、必ずしも持つという物理的条件がなくても、自分との連動性ということがわかりつつあります。

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