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使い心地の良い道具は、道具ではなくなる

渡邊 恵太 渡邊 恵太 明治大学 総合数理学部 准教授

遅延のない連動は自己帰属感を生み、快適さを生む

 自己帰属感のキーが動きの連動性であることがわかりました。では、この「動きの連動性」とはどういうことか考えてみましょう。

 例えば、自分の操作と連動していることで、パソコン自体にも自己帰属感は生まれていると考えられます。

 このパソコンが、なんらかの原因で処理が遅くなることがあります。するとユーザーは、「遅い」と言うだけでなく、「このパソコン、重い」と言うこともあります。

 おそらく、こういった感覚もパソコンの操作を通じてパソコン自体に自己帰属感が生じているからと考えられるのではないかと思っています。パソコンが遅くなったり、止まったり、また普通に動いたりすると、イライラして、「このパソコンは使いにくい」となります。パソコンに対して自己帰属感がなくなり、使いにくい道具という感覚が生じるのです。

 すなわち、自己帰属感を消失させているのは「遅延」です。遅延によって動きの連動性が失われるのです。すると、そのものに対する自己帰属感も失われ、つまり、自分の身体の延長である感覚は失われます。

 例えば、カーソルの動きに0.3秒の遅延を起こさせると、ユーザーは違和感を覚え、自分が操作している感覚を失っていきます。さらに3秒も遅延させると、もはや、他人が操作しているパソコンを見ている感覚になります。つまり、自己帰属感を生む連動性とは、遅延がないことが重要なのです。

 実は、私たちはこの現象を10年以上前に実体験しています。2007年にiPhoneが登場する以前、各端末メーカーは、よりユーザーフレンドリーなインターフェースを目指して、きれいなアイコンや、かわいらしいアニメーションを多用していました。

 ところが、iPhoneが登場すると、ユーザーは一斉にiPhoneに流れたのです。衝撃を受けた各メーカーは、さらにアイコンやアニメーションの工夫をしましたが、ユーザーは戻りませんでした。

 ユーザーがiPhoneを選んだ理由は見た目の良さよりも、操作の快適さだったのです。その快適さは、iPhoneがユーザーの操作に遅延なく連動したことによって生まれていました。つまり、iPhoneに対して、ユーザーは自己帰属感をもったのです。

 自分勝手に動くアニメーションがどんなにかわいくとも、それは他者です。ユーザーにとってより快適で、気持ち良いのは、道具が「自分の身体の延長」である感覚をもたらすことでした。自分の操作に遅延なく連動するiPhoneは、自分との繋がりを感じさせてくれたのです。

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