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使い心地の良い道具は、道具ではなくなる

明治大学 総合数理学部 准教授 渡邊 恵太

近未来社会の設計にも役立つ自己帰属感の研究

渡邊 恵太 自己帰属感とは、哲学的な命題にもなるのですが、連動性という観点を得ると、iPhoneの例でもわかるように、私たちの身近な道具や、さらに、社会の仕組みづくりに応用しやすくなります。

 例えば、自分との連動性によって生じる自己帰属感は、「自分が感」でもあります。他人ごとではない、自分ごとというわけです。

 自分ごとは、自分の過去の体験からも生じます。それを利用した表現として、大規模な広さを表すときに、「東京ドーム○個分」という言い方があります。でも、東京ドームを知らない人にとっては、それは他人ごとです。

 そこで、「あなたの出身高校のグランド○個分」と言われたらどうでしょう。その広さは自分ごととしてイメージしやすくなります。

 私が指導する学生はこれをソフト化して、「自分ごと化フィルタ」を開発しました。例えば、ネット上で買い物をするとき、商品価格の表示が、自分の「アルバイト○時間分」と変換されたり、目的地までの距離が、「自宅からいつもの最寄り駅までの往復分」と変換されて表示されるのです。

 価格や距離などに対して、自分ごととして捉えやすいデータをあらかじめ登録しておく必要はありますが、いままでであれば、自分の頭の中で変換していた価格や距離などの「自分が感」を、いわば、遅延なく表示してくれるというわけです。

 また、私たちは、選挙の投票がより自分ごとになる設計も考えています。例えば、投票用紙を投票ボックスに入れたときにチャリンと鳴ると、それは「投票」に対する連動のひとつとなり、投票したことを、より自分ごとと思う感覚が生まれるのではないでしょうか。

 選挙制度の仕組みを改革するような大ごとではなく、投票を自分ごと化する工夫を少しするだけでも、投票率は上がるかもしれないのです。

 さらに、近未来は、発展したAIやロボットにより、いま、人がやっていることの多くが自動化されると言われています。

 それはそれで便利な社会なのだと思いますが、人の行動の関与があまりにも必要なくなると、社会に対する「連動」のきっかけそのものがなくなり、人は社会に対する自己帰属感を失ってしまうかもしれません。すると、人の孤立化は深まり、さらに、自分の存在意義や、生きている感覚すら失っていくことになりかねません。

 自動化の仕組みは利便性を高めるでしょうが、一方で、人が連動するような設計を行わないと、大変なことになると思います。

 遅延のない連動性によって生まれる自己帰属感を研究していくと、それは、このように多岐にわたって応用できることがわかってきます。

 最後に、いますぐに応用できるテクニックをひとつご紹介します。会社に勤務している方は、上司や周囲の仲間から呼ばれたとき、あるいは、仕事の依頼を受けたとき、内容問わずとりあえず、すぐに返事をしてみましょう。

 遅延のない連動性を示すことで、上司や周囲は、あなたが組織に帰属している感を高めるはずですし、あなた自身にも組織への帰属感が生まれてくるかもしれません。

 すると、なんとなくそりが合わないと思っていた上司や、上手く溶け込めないと感じていた周囲にも馴染みやすくなると思います。そうすれば、仕事もスムーズに運ぶようになるのではないでしょうか。

 いろいろな遅延をなくすだけで、良いことがたくさん起こるだろうということが、自己帰属感の研究をしていると感じるのです。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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