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2018.04.04

共感を得るのは身体表現をともなったコミュニケーション

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脳の自己身体イメージを錯覚させる実験

 脳の中には自分の身体についてのある種のイメージがあると考えられます。その形成メカニズムを調べるために、「ラバーハンド錯覚」という実験があります。ここでは、被験者自身の手と、マネキン人形の手のようなラバーハンドを並べ、被験者からは自分の手は見えないようにしておきます。その状態で、実際の手とラバーハンドの同じ部分をブラシなどで同時に撫でていると、被験者は、ラバーハンドは作り物だとわかっていながら、徐々に、ラバーハンドが自分の手のように感じられる錯覚が起こるのです。これは、視覚と触覚が一致することによって起こる現象です。そこで、実際の手とラバーハンドを撫でるタイミングを変えていくと、300ミリ秒(約1/3秒)ほどのずれが出ると、錯覚が起こりにくくなることがわかりました。実は、視覚情報は脳の後頭葉に集められ、触覚情報は頭頂葉に集められるのですが、その後、それらの入力信号は脳の中で合流します。そのとき、300ミリ秒以内のずれであれば脳は吸収し、視覚情報と触覚情報は一致していると判断するわけです。つまり、脳には自己身体イメージを形成するメカニズムがあり、五感から入る情報に多少の時間的ずれがあっても、そのイメージは保たれるということです。この脳の機能を応用すれば、例えば、データグローブとヘッドマウントディスプレイを使ったVRで自分のキャラクターを動かすとき、自分の動きとキャラクターの動きのずれの許容範囲を計算することができます。また、近い将来、このときの脳の活動やその情報処理を解き明かすことができれば、脳の指令によって機械を動かすブレイン・マシンインタフェースの技術を向上させ、例えば、思った通りに義手を動かしたり、車椅子を自由に動かすなど、医療や福祉の分野への利用が可能になってくると考えます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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