学びを加速させるアドバイス速度や他人は気にするな。じっくり取り組むことが大事。
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【32】
私の英語史、中世ヨーロッパ文学に対する興味は、突き詰めると言語の変種(方言や俚言)への関心に端を発していると思います。
私の曽祖母や祖父母は東北の人間で、お寺の維持管理をしていたのですが、彼らの言葉は私が育った関東のそれとかなり異なっていました。
子どもの頃、私の話すことを彼らは完全に理解しているのに、彼らが発話する何割かしか私は理解できないのは、言葉の違いによるものであるのは分かっていましたが、同じ「日本語」なのになぜ言葉がそれほどまでに異なるか、少なからず興味を持っていました。
大学でイギリスの小説家チャールズ・ディケンズの作品に触れたり、社会言語学的な講座をとったりして、英語にも地域方言や階級方言などがあることを知り、この分野に対する理解をより深めたいと思いました。
そのことをゼミの先生に相談したところ、そういうことであれば「英語史」を徹底的にやるべきだ、つまり英語という言語の成り立ちについて理解することが重要だというアドバイスをいただき、その方面に進むことになりました。
英語の歴史を学ぶには、古い英語の文献を読む必要があります。大学院で指導教授になっていただいたのは、河崎征俊先生という中世英文学の先生で、『カンタベリ物語』を書いたジェフリー・チョーサーの専門家でした。
新年度の授業が始まる前に英語史に関する書物を何冊か事前に読んで、昔の英語の輪郭を掴んでおくよう指示されました。そして最初の授業時に、チョーサーの『カンタベリ物語』の「騎士の話」の中英語の原文が手渡され、精読が始まりました。
既存の翻訳はあえて見ない。専門の辞書である MED (Middle English Dictionary)と呼ばれる『中英語辞典』、大きな英和辞典、そのほかフランス語、ラテン語、イタリア語、古ノルド語の辞典などを駆使して、一回の授業で50行から多くても100行ほどを読んでいきました。
はっきりいってこのテクストを読み込むのは容易ではありません。この遅々とした精読を通して、たくさんの学び、そして研究の種を得ることができました。さっと読んだのでは得られないたくさんの気づきがあったと思います。
そして、それを継続したことは大きかったのだと思います。人間ですから怠けてしまう。しかし、それを再開し、続けていく。常にトライし続けることが重要なのです(これは私がラグビーをやっていたこともあり、ラグビー精神に由来するかもしれません)。
また、自分の専門とする分野以外のものや書物にできるだけたくさん触れてみましょう。そうしてしばらくすると、前はよく分からなかったことが、何かのきっかけでパッと明らかになる時が来たりします。
焦らずじっくりと、自分が対象とするものに興味を持ち続けて打ち込むという心的態度は、こんな忙しい時代において、案外、大事なのかもしれないですね。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
