“明治大学子どものこころクリニック”取材レポート~心理と医療のチームワークで子どもに寄り添い、未来を育む。

明治大学駿河台キャンパス内、緑に囲まれた小径を抜けると見えてくるのが、「明治大学子どものこころクリニック」。主な診療科目は児童精神科で、不登校や友人・家族との関係など、さまざまな困りごとをかかえた子どもと家庭に寄り添う地域のクリニックとして親しまれています。
医学部をもたない大学が地域住民向けのクリニックを開設している例は、全国を見渡してもほとんどありません。一体どうして明治大学に……?
クリニックを訪ねてみると、その背景に、こころに向き合うプロフェッショナルたちの熱い思いがあることがわかりました。
相談員、医師、学生も加わり、子どもと家族をチームで支える
明治大学子どものこころクリニック(以下、クリニック)は、明治大学心理臨床センター付属の医療機関として2021年にオープン。
院長の山登敬之先生、そして心理職(公認心理師・臨床心理士)である専門相談員たちがじっくり時間をかけて困りごとに向き合う診療スタイルで地域からの信頼も厚く、来院者数は年間のべ3000人以上。初診は数カ月先まで予約が埋まっています。
また教育面では、大学院文学研究科臨床人間学専攻臨床心理学専修の大学院生の実習を受け入れて、未来の公認心理師・臨床心理士を育成しています。
Meiji.net編集部がクリニックを訪ねたのは午前の診療が終わったお休み時間。お子さんやご家族の不安も和らぎそうなアットホームな雰囲気です。

待合室には絵本やぬいぐるみがずらりと並ぶ

山登先生が診療を行う診察室
カウンセリングルームの引き出しには、おもちゃやぬいぐるみがぎっしり収納されていました。子どもの緊張を和らげるだけでなく、遊びを通じて子どもの情緒の安定や成長を促すプレイセラピー(遊戯療法)に用いられます。そんな子どもの様子を見守りながら、家族の方とじっくり話すための部屋も。

左:プレイセラピーに使用するおもちゃ 右:相談室は、ご家族と相談員がマジックミラー越しに子どもの様子を観察しながら話せるつくりになっている
子どものためのクリニックといっても、困りごとを改善するには家族ぐるみのアプローチが不可欠です。初診時には、1時間かけて子ども本人とご家族、医師、心理職、実習の学生も車座になって問題を共有し、全員で方針を確認するのだそう。
初診にここまで時間を取るのは、困りごとをしっかり聞き取り、子どもの様子を観察しながら背景を探るためだといいます。専門相談員の太田智佐子さんは、こう語ります。
「家族や学校も含めてみんなで協力体制を作ってゆく、逆に言えば、悪者を作らないということがポイントです。家庭や学校、それぞれの場所で子どもは違う顔を見せますが、どれも全部その子のあり方として受けとめてあげること。なかなか難しいのですが、ご家族を含めて支えていくのが私たちの仕事なんです」

クリニックでは、医師、心理職、学生が意見を交わしながら理解を深めていく
相談員、医師、学生も加わり、子どもと家族をチームで支える
公認心理師・臨床心理士といった心理職は、困りごとを抱えた患者さんに寄り添い、検査やカウンセリング、心理療法などを通して改善をサポートする仕事です。
明治大学では、2000年代に文学部心理社会学科臨床心理学専攻・大学院文学研究科臨床人間学専攻臨床心理学専修を設置して心理職をめざすカリキュラムを整備。民間資格である臨床心理士の資格取得に必要な実習の受け入れ先として心理臨床センターが開設されます。
けれども、センターはあくまで心理相談機関であり、精神科医療部門は備わっていませんでした。
そんな明治大学でクリニックの構想が生まれた経緯について、太田さんは次のように振り返ります。
「心理臨床センターでは、さまざまな困りごとをもつ方々から年間3000件ほどの相談を受けています。相談に来られる方の中には精神科などにかかっておられる方も多く、学内に精神科医療部門をもつことでしっかりフォローできる体制をつくろうという構想はあったのですが、なかなか実現できずにいました。
そんな折、公認心理師法が2015年に成立し、資格取得の要件として医療分野での実習が明記されました。しかし、学外の医療機関では、私たちの考える十分な実習時間や質を学生に保証してあげることが難しい部分もありました。
そこで改めて、学生のため、そして患者さんのために、心理と医療が協働するクリニックをつくる必要性が浮上したのです」

明治大学子どものこころクリニック専門相談員の太田智佐子さん
精神科医療の現場では、心理職は医師の指示のもとで検査などをその都度担当するという関係が一般的。加えて、多くの患者さんを診療する必要があるため、医師と十分に話し合う時間が持てなかったり、一人ひとり時間をかけて向き合うことが難しく、心理職としての力を十分に発揮できないことも少なくないといいます。
太田さんをはじめクリニックの立ち上げに携わった心理職スタッフは、「医学部がない明治大学だからこそ、医師と心理職が対等に話し合い、時間をかけて、患者さんと多面的に向き合う診療体制をつくることができるのではないか」と考えました。
また、地域のニーズを調べた結果、児童精神科が圧倒的に足りていないこともわかり、クリニック設立に向けて各方面に粘り強い働きかけを行いました。
そんな地道な活動が実を結び、2021年1月にクリニックが開院。院長には太田さんらの思いに共感した精神科医の山登敬之先生を迎え、現在に至ります。
心理職をめざす学生が主体的に関わり、豊かな経験を積むことができる
クリニックでは年間を通して学生の実習を受け入れ、チームの一員として経験を積む機会を提供しています。今回は学生のみなさんにも集まってもらい、実習で印象に残ったことやクリニックの魅力についてお聞きしました。
大西美穂さん(博士前期課程2年)は、「医師と心理職、学生が意見を交わしながら症例を検討する『クリニックカンファレンス』などを通して、多面的な支援のあり方を学べたことがとても大きいです」と実習の魅力を語ってくれました。とくに印象に残っている実習として、発達障害のお子さんを持つ保護者向けの「ペアレント・トレーニング」に参加したことを振り返ります。
「発達障害の知識や子どもとの関わり方について、実践を交えて学んでゆくプログラムなのですが、はじめは懐疑的だった保護者の方も、回を重ねるごとに表情が明るくなって、最後はすごく自信をつけてプログラムを終えられたのが印象的でした」
瀬川梨央さん(博士前期課程2年)は、他の医療機関での実習と比較して、クリニックでは患者さんと直接やりとりをする機会がとくに多かったと話します。
「実際に接してみると、同じ診断名がついていても困りごとや症状の出方は人によって全く違うということを自身の体験として学ぶことができました。検査を行う際も決まったパッケージではなく、患者さんの困りごとに寄り添って、必要な検査を選択するということを学べて、結果も直接フィードバックする場面にも同席させていただけたりして、とても学びが大きかったです」
取材時ちょうど実習の最中だったQIN FEIさん(博士前期課程1年)は、日々の手応えをこう語ります。
「先輩方のおっしゃるように、患者さんと関わる機会は本当に貴重だと感じています。このクリニックでは、学生が直接お子さんと関わる時間が用意されていて、そこが一番の勉強になっています。なにより、医師の先生も相談員のみなさんもとても親切で、失敗をしてしまっても優しくフォローしてくださるのがありがたいです」

大学院文学研究科臨床人間学専攻臨床心理学専修 博士前期課程2年 大西美穂さん

同 博士前期課程2年 瀬川梨央さん

同 博士前期課程1年 QIN FEIさん
児童精神科で学生の実習を受け入れることは、学生にとっても、患者さんにとっても、メリットがあると太田さんは言います。
「学生にとっては、大人の患者さんより子どものほうが接しやすいですし、お子さんにとっても、年齢の近い学生は接しやすい存在です。
実際に学生のみなさんは、私たちプロにはない子どもの側の視点で意見を出してくれることもあるので、診療面でもとても力になっています」
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。