学びを加速させるアドバイス「歴史的思考力」=他者の視点を想像する力を身につける
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【28】
私は明治大学法学部で、主に1・2年生を対象に西洋史の講義を担当しています。授業で私がとくに重視しているのは、歴史的事実を暗記することではなく、「歴史的思考力」を身につけてもらうことです。
私は、「歴史的思考力」とは、過去の出来事を一つの正解に回収するのではなく、歴史における複数の要因や視点を踏まえながら自分なりの解釈を組み立てる力のことだと考えています。
そのため授業では、学生に比較的長いテキストを読ませ、それを自分の言葉でまとめたものを発表させています。他人の説明をなぞるのではなく、自分なりに構造を理解し、言葉にし直す作業を通じて、歴史には単線的な原因や単純な答えが存在しないことを体感してもらうためです。
インターネットを使えば、断片的な「答え」はすぐに手に入りますが、それらを歴史の文脈の中で理解し、自分なりの解釈を提示する力は、実践しないと身につきません。だからこそ、自分で考え、自分の解釈を組み立てる訓練が欠かせないと考えています。
こうした授業実践の背景には、私の所属が法学部であるという立場も関係しています。法学部で歴史を教えることの意義は、制度や法律は決して常に中立的に機能するものではなく、それを運用する人間によって大きく姿を変えるという点を、具体的な歴史事例を通じて示すことにあると考えています。
ドイツ近現代史、とりわけナチ時代は、法や制度が権力者によって恣意的に解釈・運用された典型例です。形式上は「合法」であっても、その内実は人権侵害や排除に満ちていました。
こうした時代から様々なことを学んできた者として私が常に意識しているのは、法や制度を理解するには、それを行使する側が「どのような世界を見ていたのか」「なぜその判断を正当だと信じたのか」を想像する必要がある、という点です。
その想像力を欠いたままでは、制度は単なる抽象概念にとどまってしまいます。歴史的思考力とは、別の言い方をすれば、まさにそうした想像力を通じて、制度を「生きた人間の営み」として捉え直す力だと思っています。
3・4年生向けのゼミでは、こうした考えをさらに深めるために、「歴史×ダークツーリズム」をテーマに、戦争遺跡や災害遺構といった「負の歴史」の現場を実際に訪れています。現地で資料や証言を読み、議論を重ねることで、加害と被害、記憶と忘却といった複数の視点が交錯する歴史の複雑さを、学生自身が実感として理解していきます。
このような経験を通じて培われる、歴史の多層性・複眼性への感覚こそが、SNS時代に横行する歴史を軽視する主張——現場を見ず、資料を読まず、安易に単純化された主張——に対する有力な対抗手段の一つになると信じています。なぜなら、現場での体験は、安易な断定を拒み、「別の見方がありうる」という気づきを眼前に突きつけてくるからです。
「歴史的思考力」の核心は、常に「別の立場がありうる」という前提に立つことです。こうした思考様式はビジネスや日常生活において、他者の視点を想像する力としても役立つことでしょう。
歴史を学ぶことは、過去から教訓を得るだけでなく、他者と向き合うための思考の基盤を鍛える営みでもあるのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
